第三章『家督相続』
伊達政宗、幽霊退治は伊達じゃない その壱
本格的に寒さが増してきた今日この頃。カイロでも作ろうと、俺は動き出した。
古いカイロと言えば、誰しもが聞いたことがあるであろう『
温石ってのは、熱伝導率の高い石を温めて携帯用のカイロとして使う奴なんだ。俺は現代日本人の記憶を持っているから、カイロは必需品。まあ、温石は確か、江戸時代くらいに登場しだしたらしい。そこは気にしないでくれ。
熱伝導率の高い石は、景頼に調達を頼んだ。そろそろ石が届く頃だ。部屋であぐらを掻いていると、景頼が入ってきた。
「若様!」
「おお、景頼。石は?」
「七つほど、集めることが出来ました!」
「それはいい。早速温石を熱せよう」
水を熱し、人肌程度の温度になったら石を突っ込む。何分か経ったら、石を取り出して
「ほら、景頼。お前も懐に入れろ」
「はい、承知しました」
景頼も懐に温石を入れて、温かいと言ってため息をついた。小十郎と成実にも温石を渡すために、景頼に二人を呼びに行かせた。俺は温石を頬に当てて、寒さという事実から現実逃避した。
景頼は小十郎、成実、気を利かせて愛姫を連れてきた。寒さから温かくなる話しをしようと、円を描くように全員で座った。すると、温石を額に当てている小十郎が酷いことを話し始めた。
「若様は幽霊の噂を知ってますか?」
この寒い時期に寒くなる話しだけはやめてほしい。そんな話しをしたいなら夏になってからにしろ、と内心腹を立てたが愛姫が興味を示しているので無視は出来ない。
「幽霊? どんな噂だ?」
「夜、米沢城内に幽霊が現れるらしいんですけど、幽霊を見ちゃったら殺されちゃうんです!」
寒っ! 体感温度がかなり下がったぞ......。怖い話しは苦手だし、今は冬だぞ。ふざけんな。
「その幽霊は、もっと具体的な話しはないのか?」
「甲冑を着ているって聞きました」
「どんな幽霊だよ......」
思っていたことが、つい口に出てしまった。だが、本当にどんな幽霊なのか気になる。愛姫も、肝試しっぽいことをしたい感じの表情だ。なら、幽霊を探してみようか。
「よし。その幽霊を叩き潰そう」
俺が幽霊退治を宣言し、小十郎と愛姫は喜んだ。が、成実と景頼は顔を強張らせた。どうやら、幽霊が苦手なのだ。その気持ちはわかるが、愛姫のために犠牲になってくれ。
幽霊が夜現れ、その幽霊を退治するとなると時間は夜。寒いなぁ。夜は冷えるなぁ。やだなぁ。
本日夜、準備をして幽霊探しに出掛けた。辺りを照らし、片っ端から幽霊を探した。どこにも幽霊の姿はなく、肩を落としたくなったが、愛姫が飽きるまでは付き合った。深夜に入り、愛姫も眠くなってきたと見え、
俺は相手が眠いか眠くないか、辛いか辛くないかの判断するのが得意だ。高校教師をやっていると、生徒が眠いか眠くないかを意識する。そして、いつの間にか、相手が眠いか見分ける特殊能力を手に入れた。転生してからもその特殊能力は健在のようで、今もこうして愛姫が眠いのだとわかった。
「夜も深くなってきた。そろそろ眠ってはどうだろうか?」
四人は賛成し、それぞれ部屋に戻って眠りに就いた。
布団に入り、一時間経過しても寝ることが出来なかった。だから、幽霊について考えてみることにする。推理材料は現在は乏しい。今ある材料だけで推理出来ることがあるとすれば、なぜ幽霊がいる、という噂が出たのか。小十郎が言うには、幽霊は三の丸に出没するらしい。三の丸は家臣の屋敷が所狭し(所狭しという程ではない。少し盛った)と並ぶ。三の丸に現れるのなら、屋敷に住む家臣の誰かが幽霊に扮している可能性もあるのか。
まず、幽霊の噂が流れるメリットを考えよう。三の丸に幽霊がいるのなら、俺達を例外として大体の奴は夜には三の丸には近づきたくはなくなる。犯人は夜に三の丸から人を遠ざけたいから噂を流したのかもしれない。
夜、と時間が限定的なのも何か意味があるのか......? 例えば夜に三の丸に行きたいが人目にはつきたくない、とか。それなら、ある程度の理解は出来る。ちょっと待てよ、三の丸に幽霊いたら目立つぞ。屋敷が並んでいるんだから、顔を出す奴もいる。相当目立つ場所に幽霊は本当に現れるのだろうか。もし、現れるとしても、噂だけじゃなくて目撃談なんかもたくさんあるはずだ。その幽霊目撃談がないってことは、幽霊は実際には存在せず犯人は幽霊に扮することなく噂だけを流している、という結論が出る。
少しずつわかってきた。犯人が幽霊に扮する琴がないってことは、犯人だとバレずに安全圏にあるため。犯人はかなり慎重であり、夜に三の丸に行く用事がある。しかも、その用事は露見してはならない。明日の夜に、三の丸にこっそり隠れて犯人が来るか見張ってみるか。
二時間くらいで寝れた俺は、目覚めてから四人に、三の丸で待機して犯人を捕らえてみてはどうかと提案した。
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