伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その弐壱

 怒り狂った怪人二十面相は攻撃をしたが、ルパンとホームズのコンビに勝てるはずはなかった。配下も皆無、怪人二十面相はルパンに蹴り飛ばされる。

「ルパン! 二度目の負けがそんなに嫌か!?」

「フッ! つまらん。ホームズを守ると決めたんだから、私はホームズに降りかかる火のを払う。その火の粉が、今回は二十面相なんだよ」

「覚えていろ! 日本の宝を盗むということは、日本の名探偵・明智小五郎と日本の大怪盗・怪人二十面相を相手にするということだ! 次は必ず勝つぞ!」

「楽しみにしている。私を負かすほどの強敵との戦いは本望だ」

 怪人二十面相は隠し扉の先に姿を消した。

 ホームズはホッとして、ルパンと握手をする。「協力に感謝する。モラン大佐から逃れるために、これからも頼む」

「モラン大佐を捕まえるのは、確かホームズシリーズの六冊目の単行本『シャーロック・ホームズの帰還』に収められた短編『空き家の冒険』だったかな?」

「そうだ。それまでは僕をモラン大佐から守ってくれ」

「心得ている。その代わり、日本での泥棒を手伝ってくれよ」

「もちろんさ。全九冊にもなるホームズシリーズを、君にまっとうさせる。それより、ここは怪人二十面相のアジトだ! 怪人二十面相の泥棒道具がまだたくさんあるはずだぜ」

 ルパンはちらりと、アジトの壁の棚にある泥棒道具を見つめる。

「僕も協力して怪人二十面相の泥棒道具を運び出すよ」

「ああ、助かる。では、配下も呼ぼう。──フリッツ!」

 フリッツは焦りながら、ルパンの元に駆け寄った。「はい、どうしましたか?」

「日本にいる配下を全員呼び集めろ。そして、このアジトの中の道具を地上に運び出せ」

「わかりました!」

 ルパンとホームズはいち早く、アジトにある泥棒道具を確認した。そして、ルパンは四角い箱を手に持って大喜びをした。

「どうしたんだい、ルパン?」

「二十面相がこの『空飛ぶ箱』を使って空を飛んでいたんだ。これを使えば泥棒がかなりはかどるんじゃないか?」

「空を飛ぶ!? そんなことが出来るのか?」

「日本には『百聞は一見にしかず』という言葉があるらしくてね、何回か聞くより一回見た方が早いってわけだよ」

「的確な言葉だ。では、地上に出てその箱を試してみよう」

「私もこれを試すのは初めてだが、怪人二十面相は私の前で使っていた。捜査方法は何となくわかる」

「それは良い!」

 二人は地上に出て、ルパンは箱を背負ってみた。すると、両足が地面から少しずつ離れていった。

 ホームズは目を見開く。「時代とは移り変わるものだね!」

「ハハハ! こりゃすごい! さすが二十面相だ。こんな泥棒道具を生み出すとは! 私を以前、倒しただけのことはある」

 ルパンは好きなように空中を飛び回った。キレイに旋回せんかいする方法を見つけ、ホームズを驚かせた。

「エンジンは最低限しかない。だからか、はるか上にはなかなか飛ばない。これは、改良の余地がありそうだ。あとで小細工に長けた者を手配しよう」

 ルパンは地上に降りて、次はホームズが箱を背負った。飛ぶとバランスを取るのには苦労したが、ホームズは数分でコツを掴んだ。そして、自由に飛んだ。

「ホームズ! そろそろエンジンが──」

 ルパンがそう言いかけた時、箱のエンジンが切れてホームズは地面に真っ逆さまに落ちた。

「いたたたた......」

「大丈夫か?」

「ああ、一応はね」

 ルパンは箱をフリッツに預けると、二人で再度アジトから怪人二十面相の泥棒道具を運び出した。

 それから、ルパンとホームズは日本の宝を盗んでいった。怪人二十面相、否、明智小五郎はルパン一味の逮捕に尽力したが、まんまと出し抜かれた。それは、ルパン一味が改良した空飛ぶ箱のお陰である。

 その後、ルパンはイギリスのワトスンの元に送り届けられた。ホームズは老人の変装をして、本を何冊か小脇にかかえた。ワトスンの後ろに回ると、ワトスンはホームズにぶつかり、ホームズの持っていた本が地面に落ちた。

 ワトスンは老人に変装したホームズを見る。「あ、すみません!」

 ホームズはイタズラに、嫌な顔をして見せた。するとワトスンは本を拾い上げてホームズに返し、人混みに分け入っていった。

 ホームズはニヤリと笑った。「この変装でワトスンのところへ行ったら、さぞ面白かろう!」

 ワトスンの向かう書斎しょさいに先回りしたホームズは、ワトスンが入ってから扉を叩く。するとメイドが出てきて、ワトスンの元へ通された。

 ホームズはギョッとしたワトスンを、内心笑った。「私が来て、驚きましたか?」

「それはもちろん。先ほどは気を悪くさせてすみません」

「いえ、私は本を拾ってくれて助かりました。最近は腰がうまく曲がらないもので。

 私はあなたを見つけて後を付けていきました。お礼を言いに来たのです」

「それはわざわざありがとうございます」

「おや」ホームズはワトスンの後ろの本棚を指差した。「そこの本棚、少し乱雑に本が入れられていやしませんか?」

 ワトスンは振り返って、本棚の本を直した。そしてまた振り返ると、ホームズは変装を解いた。

「やっ! ほ、ホームズ!」

 ワトスンは変装を解いたホームズを見て、ひどく驚いた。本を落とした老人がワトスンを訪ねてきた時より、ギョッとした。そして、気絶して床に突っ伏した。

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