伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その弐零

 怪人二十面相から逃れるため、ルパンは小屋に入った。しかし、荒い呼吸で気付かれて、谷底に落とされてしまう。

「二十面相!」

 ルパンは叫んだ。だが、怪人二十面相はじっと落ちるまで見つめているだけだった。ルパンは助かるために、泥棒に使う道具で何かないかふところを探った。

「そうか、何もない」

 眼光をするどく光らせたルパンは小屋の壁にしがみついて、地面に直撃する際にダメージを最小限に抑えるために宙をうまい具合に舞った。ルパンが着地する頃には、小屋は半壊だった。

「一周にはここに来てやる」

 怪人二十面相が去ってから、ルパンは小屋から抜け出す。

「フゥ」ルパンは岩にもたれかかる。「さすが柔道が生まれた国、Japonジャポンだ。野蛮やばんすぎる」

 汚れた服を脱ぐと、配下を呼び寄せて新たな服に着替える。小道具もポケットに入れて、何とか様になった。

「フリッツ。ホームズは?」

 ルパンに呼ばれたフリッツという配下は、返事をしてから駆け寄った。「ホームズは怪人二十面相のアジトで、現在幽閉されています」

「そうか。アジトへ向かおう」

「それと、そろそろホームズは山羊の盲腸のチューブに入った手紙を読むことでしょう」

「それは良い。それに間に合うように急ぐか」

「はい」

 二人は車に乗り込んで、ルパンは運転席でハンドルを握った。フリッツは実弾の入った銃を持って、後方を警戒した。

「そこを右です」

「ああ、右だな?」

 ルパンはハンドルを操作して右に曲がり、道なりに進んだ。フリッツが、ストップ、と言うとルパンは降車こうしゃした。

「ここの地下にアジトがあるようです」

「威力の低い黒色こくしょく火薬を持ってこい。実弾銃を持った傭兵ようへい崩れも連れてくるんだ」

「わかりました」

 人を殺さないのがモットーのルパンは、フリッツが持ってきた黒色火薬とマッチを持った。

「ホームズが紙幣を監視役に渡し、怪人二十面相がホームズの元へ行ったら教えろ」

 怪人二十面相の配下は怪人二十面相に忠実だ。ホームズが監視役に紙幣を渡したら、必ず監視役は怪人二十面相に報告する。そうしたら、怪人二十面相はホームズの元へ行くはずだ。

 怪人二十面相を入り口から遠ざければ、配下を相手にするだけだからルパンは一瞬でアジトを乗っ取れる。

 これはルパンの作戦であり、緊急時の場合に備えてホームズが指にはめていたチューブに、今回の作戦内容を書いた手紙を入れていたのだ。この手紙を読んだホームズは、紙幣で怪人二十面相を引き寄せた。

「ボス。ホームズが怪人二十面相を引き寄せました」

「やるな、ホームズ!」

 ルパンは黒色火薬を怪人二十面相のアジトに投げ込んだ。するとたちまち爆発し、ルパンはアジトに乗り込む。

「掛かってこい!」

 ルパンは素手で対人戦闘をし、アジトのほとんどを掌握しょうあくした。


 作戦がうまくいったのだとわかったホームズは、腕を組んだ。「僕はコカインが欲しいね。パイプでも良いよ。ああ、パイプは陶器とうき製のもので頼むよ」

「貴様、図ったな」

「探偵とはそういうもので、泥棒なら一手先を読むものだ。君は僕とルパンのコンビにはかなわない」

「ルパン単体には勝利を収めた」

「それは君が人を殺したから勝てたんだ。ルパンから聞いた。君はルパンを倒すためにルパンの配下を殺したようだね」

「チッ! このやろう! 俺を舐めるなよ!」

「まあ落ち着け。君はすぐにルパンに倒されるんだ」

 ホームズの言葉通り、ルパンは怪人二十面相の前に現れた。「待たせたな、二十面相」

「一周忌まで待っていればいいものを、貴様!」

「感情が高ぶっているようだ。冷静さを欠けば、私を倒すことは出来ないぜ」

「俺は冷静さに欠くかもしれんが、ルパンは合理性に欠くよ。このホームズを助け出すために、アジトにまで足を運ぶとはな」

「ホームズを守ると約束したから、助け出すためにアジトに来るのは当然のことだ」

もこいつもつまらん奴だ」

 ルパンはつい笑ってしまう。「つまらん奴がで良かった。ドイツではなくフランスがつまらん奴だったら、私はショックなのでね」

 ルパンはフランスで生まれた小説の主人公である。

「くだらない洒落しゃれだ」

「日本語はうまくなっただろ?」

 二人の会話を聞きながら、ホームズは牢屋の扉を自力で解錠かいじょうした。

「ホームズ、来い」

「ああ、わかっている。陶器製のパイプとコカインはあるだろうね?」

「あとで持ってこさせる」

 ルパンとホームズは合流し、怪人二十面相の方へ向いた。

 怪人二十面相は眉間にしわを寄せた。「ちくしょう! テメェら二人を相手にしてやる! 掛かってこい!」

 配下が全員やられて、アジトを乗っ取られた怪人二十面相はやけくそだった。怪人二十面相としては珍しい実弾銃を手にして、銃口を二人に向ける。

 ルパンは歯ぎしりをする。「ついに実弾銃を持ったか」

「先輩だからと図に乗るな、ルパン。覚悟しろ。谷底に落ちなかったことを後悔するんだな!」

 ホームズはルパンからステッキを渡されて、先を怪人二十面相に向ける。ルパンも実弾銃を怪人二十面相に向けていて、怪人二十面相はたけびを上げた。戦争開始の合図であろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る