伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その拾玖

 ホームズに意識はない。ルパン一人で怪人二十面相に立ち向かうしか手段はない。しかし、ルパンは体から重い道具を抜き去ったばかりだから、怪人二十面相から逃げる方法は少ない。

「起きるんだ、ホームズ!」

「ルパン、ホームズ。君達は俺のアジトに来やがれ!」

「ホームズ、起きろ! 逃げるんだ!」

「チッ!」

 怪人二十面相は催眠術を使った。怪人二十面相は特別な力により、催眠術を使える。それを事前に知っていたルパンは、何とか意識を保ち、ホームズをかついだ。しかしすぐに追いつかれて、怪人二十面相に横っ腹を蹴られる。

「ぐあぁ!」

「人を殺すのは好きじゃないが、あんなの言った通り殺すことは出来なくもない」

「ちくしょうっ!」

 ルパンはホームズの持つステッキを拝借はいしゃくし、怪人二十面相を叩く。

「俺は柔道五段だ! 舐めるなよ」

 ここは冷静な判断をし、ルパンはホームズを置いて逃げる。怪人二十面相は、そう来たかと、と度肝どぎもを抜かれるも、配下にホームズをたくしてルパンを追った。

 ルパンは人気ひとけのない場所へ進め、森に入った。しかし目の前に水深の深い川が現れ、背水として絶体絶命となった。

「終わりだ、ルパン!」

 ルパンは両手を背中に回して、ポケットから山羊の盲腸を取り出す。

「私は負けない。全世界で泥棒としての経験がある私は、こういう場面に幾度いくど遭遇そうぐうした。けれどいつも、勝ってきたんだ!」

 山羊の盲腸に、両手で急いで空気を入れて、口を密閉する。それを数個こしらえると、川へと走り出した。

「あっ!」

 山羊の盲腸を浮きの代わりとして、川をもうスピードで渡った。向こう岸に着いたルパンは、ニヤリと笑った。

「貴様には川は渡れまい!」

「そんなことはないさ」

 怪人二十面相は四角い箱を背負い、スイッチを入れた。すると体が地上から離れ、重力に逆らって空をかき分ける。

「話しに聞く怪人二十面相の空飛ぶ道具だな」

 ルパンは感心し、それからすぐに走り出した。怪人二十面相も川を渡り終えると、箱を置いて駆けだした。ルパンは一足先に、自分が断崖絶壁に到着したことに気付く。隠れる場所を探し、近くの小屋に身を潜めた。

 遅れて到着した怪人二十面相は、断崖の下を覗き込んだ。

「下にはいないようだ」

 小屋に目を向けて、耳をます。息が荒いルパンが、この小屋の中にいる。怪人二十面相は小屋を押して、断崖の下に落とした。これにはルパンも予想外で、アッと叫んだ。

「これからは俺が二代目アルセーヌ・ルパンになってやるよ!」

「二十面相!」

 小屋は断崖の下へ落ちてゆき、ものすごい落下速度で地面に直撃ちょくげきしてペシャリ。

「一周にはここに来てやる」

 そう言い残して、アジトに戻る。


 怪人二十面相のアジトには、ホームズが幽閉ゆうへいされていて、まだ意識は朦朧もうろうとしていた。だが、力を振り絞ってルパンの所在を尋ねた。

「ルパン? ああ、彼は断崖へ落ちていったよ」

「ルパンが!? 貴様っ!」

「名探偵ホームズとあろう君はあわれだ。どうだい? これからは名探偵と名乗らないが身のためだし、今日から俺のしもべちたんだ。嬉しいかい?」

「嬉しいものか。コカインの七パーセントの液を持ってこい。皮下注射の針もだ」

「麻薬はある程度やめることだよ」

 怪人二十面相はその場を去って行った。ホームズは状況を整理する。そして、ここから逃げ出すために推理をした。指をいじくり、ルパンに貰って指にはめていた山羊の盲腸を外した。すると、日本の紙幣とルパンからの手紙が入っていた。

 ホームズはそれを読む。ルパンからの遺書のような文面、これからやってほしいこと云々がつづられていた。ホームズはライヘンバッハの滝と同様に目をぬぐった。

 紙幣は何に使うのか考えたが、良い方法を思い付いて監視役の人物を呼んだ。

「どうした?」

「これをやる。だから僕をここから出してくれないかな?」

 監視役は紙幣を凝視ぎょうしし、コンマ数秒間だけ思考を巡らせた。受け取るか受け取らないか、どちらがベストなのか。考えた末に、紙幣を受け取ってふところに入れた。

「待っていろ」

「ああ、わかった。良い結果を期待しているから。出来ればコカインが欲しいがね」

 監視役はホームズの言葉を無視し、闇の先に消えていった。ホームズは山羊の盲腸のチューブの中にルパンの手紙を入れ直し、指にはめた。

 やがて足音が近づいて来たから、ホームズは来たかと顔を上げると怪人二十面相がいた。

「紙幣を配下に渡したようだね。ただ、俺の配下は俺に忠実なんだ。お金で心が揺らぐとでも思ったか?」

「ん、ああ」

「身体検査はしたが、どうやって紙幣を持ち込んだんだ?」

「ルパンの手法だよ。ただ、教えるわけにはいかないよ」

「そいつは残念だ」

 ニヤニヤと笑う怪人二十面相の背後で爆発音がとどろいた。そしてルパンの声が聞こえる。

 ホームズは今までにない笑みを浮かべ、怪人二十面相は今までにない驚愕きょうがくした顔になる。ルパンは生きていた。そして、怪人二十面相のアジトを突き止めてホームズを助けに来たのだ。いったいルパンは、どうやって生き長らえたのか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る