伊達政宗、元服するのは伊達じゃない その肆

 勘違いしている奴もいるかもしれないから、訂正をする。輝宗が毒を盛ったと言ったが、少し違うのだ。くわしく説明するには、輝宗が唐ハンミョウにより倒れた当日の話しまで遡ることになる。


 俺が輝宗に食器類を銀製に統一するように提案したすぐあとだ。本丸御殿を出て、小十郎とまずは雑談をした。その雑談の中、俺はずっと輝宗のことを考えていた。それに気づいたのか、小十郎は、大丈夫ですか、と尋ねてきた。

「大丈夫だ。少し犯人についてのこころ当たりがあってな。つい、そっちの方を考えてしまった......」

「もうすでにこころ当たりがお有りでしたか!」

「ああ。今はその推理で正しいのか吟味している最中だった。すまん。雑談を続けよう」

「では、私からですね。天下統一はやはり、鉄砲をどうやって使うかですよ。うまく使うことが出来れば、騎馬隊も難なく倒せるはずです」

「確かに、馬は厄介だ。だが、鉄砲となると予算も問題になってくるな。騎馬隊を倒せるほどの鉄砲の数となると、実用出来るのはかなり先になるだろう」

「ですよね。ちなみに、若様はどのようにお考えで?」

「忍者集団を利用しての情報操作や、奇襲などが妥当だと考えている。他には、敵を寝返らせるとか。兵糧攻めの場合は井戸に唐ハンミョウを入れて、それを飲んでも死なない程度に調整するが唐ハンミョウは腫れるから、恐怖におびえさせて降伏させる」

 小十郎が真剣に聞いていた。

 唐ハンミョウを死なない程度で、かつ腫れるように混入させる。自分で言ったことだが、その言葉で動機の推理も出来た。犯人も完璧にわかったし、早速輝宗に伝えに言った。

「父上。お話ししたいことがございます」

「話してみろ、梵天丸」

「えぇ」俺は辺りで盗み聞きしている輩がいないか確かめてから、輝宗を正面から見た。「父上ご自身が、自分の食膳に唐ハンミョウを混入させたのではないでしょうか?」

「何を言うか!」

「唐ハンミョウは腫れますし、実際に暗殺には不向き。しかし、水堀には忍者が侵入した跡がございました。なので、私はうまく推理が進みませんでした。......ですが、銀食器に変えることを提案した際の反応で父上の自作自演ではないかと疑い始めます。そして、つい先ほど動機を推理しました」

「梵天丸!」

「待ってください、父上。動機は家臣の緊張を高めて、急な戦でもすぐに応じられるようにするためだと考えられます。父上はおそらく、つい最近に終着した手取川てどりがわの戦いを危険視しているのでしょう?

 勢いに乗る織田信長軍を上杉謙信軍が圧勝した。上杉謙信は越後国(新潟県)、我が伊達家は出羽国(山形県)。お互い近いこともあり、伊達家の主君が毒を盛られたとなれば家臣の緊張は高まる。そのような心境で、私の野望を聞いた。その際に唐ハンミョウの存在を知り、今回の主君毒殺未遂事件を計画したのですね?」

 つまり、俺が野望を話したから輝宗は自身の食膳に毒を盛った。これは、俺が転生したから起こった事件なのだ。

「梵天丸は教養が堪能だな。お前の言うとおり、毒を盛ったのは俺だ。動機も当たっている。完敗だな」

「このことは他言しません。他言すれば、父上が自分の命懸けで行ったことが無駄になります」

「む! その目は何かを求める目だな」

「はい。必ず銀食器を使っていただきたいのです」

 その後、輝宗と一部の家臣の食器は銀製になった。


 今述べたことからわかるとおり、輝宗が毒を盛ったのは自分の食膳だ。

「父上のミスではありません。父上は家臣の緊張を高める最善の方法を命懸けで行いました。ミスをしたのは私です。気を取られて、忍者の侵入の件を忘れていたのですから......。

 つまり、忍者を取り逃がしました」

「わかった。箝口令かんこうれいは敷いてあるし、忍者を取り逃がしたことが露見することはないだろう」

 輝宗に頭を下げて、本丸御殿をあとにした。

 小十郎と合流した。その日は小十郎と一日中遊びほうけた。しかし、この時代の遊びというのは現代にはるかに劣る。今日、熱中して遊んだのは将棋だ。しかし、俺は駒の動きやルールを知っているだけで強くはない。小十郎にボロ負けして終わった。


 次の日。家臣らが集められた。当然俺は中心にいる。これが伊達政宗の第一歩、元服だ。

 よかった。戦国時代の男のガキの髪の結い方はポニーテールまんまだから、ちょっと恥ずかしかったんだよな。精神年齢40代だし。

 理髪の係りが俺のポニーテールのような髪をひとつにまとめて、頭の頂点に持ってきた。10年(内9年は前世の記憶がなかった)の歳月を経て、やっと恥辱のポニーテールから解放された。

 爽快な気分である。

「梵天丸。今日から名を改めるのじゃ」

「は、父上」

 輝宗は烏帽子を理髪の係りから受け取ると、俺の頭に被せた。

「名は、伊達氏9代目当主の伊達大膳大夫政宗から頂き、伊達藤次郎政宗と改める」

「賜りました。我が名、伊達政宗でございます。父上のため、この伊達政宗、これからも尽力いたします」

「これからもよろしく頼もう、我が息子よ」

 俺は頭を下げた。

 元服を済ませて、名は伊達政宗。年は10。家督を継ぐまで待てる気がしないな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る