伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その参

 俺はホームズをよく観察する。

 レイカーが言うには、ホームズが鍵を握っているかもしれない、ということだ。まずはホームズが住む世界、つまり異世界のことを尋ねてみよう。

「ホームズ」

「何だい?」

「異世界について聞きたい。話してくれるか?」

「もちろん!」

 ホームズの顔はパッと明るくなった。異世界のことを話したかったようだ。

 俺はホームズを部屋に入れる。

「ハハ。異世界の何から、先に聞きたい?」

「どんな世界なのか、それといくつほど異世界は存在するのか」

「的確な質問だ。僕が一ヶ月教えただけはあるね。最初は、異世界の数から説明する。異世界は......無限に存在すると言ってもいいね」

「無限?」

「本の数ほど異世界はある。僕は『シャーロック・ホームズの事件簿』の世界のホームズだ」

 ふむ。『シャーロック・ホームズの事件簿』はホームズシリーズで最後に出版された本だと仁和が言っていたな。

「海外版の『シャーロック・ホームズの事件簿』と日本版の『シャーロック・ホームズの事件簿』は別々の世界か?」

「いや、同じだ。翻訳も原作も、それぞれの出版社の本も全て引っくるめて''『シャーロック・ホームズの事件簿』の世界''になる」

「では、その異世界に俺みたいな者は行けるのか?」

「その世界の主人公が許可すれば可能。『シャーロック・ホームズの事件簿』の世界だったら僕が許可した人間なら誰でも行くことが出来る」

「俺がそっちの世界に行けば、この世界の俺はいなくなるのか?」

「もし政宗が『シャーロック・ホームズの事件簿』の世界に来たら、こっちの世界では死んだことになる。ただ、こっちの世界に戻ってくれば生き返ったことになる」

 ならば、輝宗を『シャーロック・ホームズの事件簿』の世界に連れて行ってもらえればいいんじゃないか?

「なあ、輝宗をそっちの世界で永住させることは出来るか?」

「出来るが、おすすめしない」

「何で?」

「さっき言ったが、翻訳と原作が入り混じった世界だ。入り混じれば入り混じるほど、危険な世界となる。つまり、輝宗には安全な世界ではないんだ。取り返しの付かないことになるかもしれない」

「なら、翻訳のない日本の本の異世界に輝宗を送るとかは?」

「それでも、いずれは翻訳される危険がある。それに、僕はホームズシリーズの主人公だ。他のシリーズの世界には行けないし連れてくのも無理だ」

 全然役に立たないじゃないか。レイカーめ、嘘を言いやがって。

「そっちの世界で、輝宗が安全に暮らせる方法はないのか?」

「難しいと思う。君がこのを統一するより何百倍は難しいだろう」

 この世界の中でも小さい日本を統一するだけでも俺は苦労している。それなのに、全世界を統一するより何百倍も難しいのでは無理ということだ。ホームズがまったく役に立たない。役に立つ可能性も限りなくゼロに近い。俺はどうすれば良いんだ......。

「じゃあ、ホームズには手伝ってもらう」

「何を?」

「戦だ。歴史通りに進むとなると、これから蘆名あしな氏と戦うことになる。ホームズには主力として活躍してもらいたいし、即戦力になるようにきたえる」

「僕を鍛える? 良いよ。二人でまずは戦ってみよう」

「望むところだ。ホームズは剣術も出来たよな? どうする?」

「まずは素手で乱闘をしてみようか」

「わかった」

 二人で城を出ると、野っ原で乱闘を開始した。ホームズは日本のバリツを習っているだけあって、かなり手強い。

 右脚に力を込めて、左脚で体を支えながらホームズを蹴り飛ばした。ホームズは受け身を取って攻撃をいなし、俺から離れた。

「僕の弟子として申し分ない強さだ」

 ホームズは一気に間合いを詰めて、俺を殴り飛ばす。その衝撃で、俺は床に倒れる。そのすきを狙い、ホームズは俺を押さえる。

「完敗。俺の負けだ」

「政宗もなかなかの強さだぞ」

「次は負けない。剣術だ!」

 素手だと強いとわかっても、戦は剣術の方が必要だ。もっと言えば槍、もっと言えば弓だ。

 次は剣術。俺はホームズに剣を渡した。

「剣術も得意だよ。何せバリツはステッキと乱闘を掛け合わせた武術だからね。この剣をステッキだと思えばいい。本領発揮だ」

「ああ、俺も武士として剣術は得意なんだっ!」

 俺はホームズの後ろに回り込み、地面を蹴って上空から一撃を食らわそうとした。が、ホームズは上を向いて剣を突いてくる。

「自由落下は良い作戦とは言えないよ」

 ホームズは剣を飛ばしてきた。空中では落下以外の選択肢はないし、刺さる!

 瞬時に防御壁を展開して剣の攻撃を防ぎ、防御壁を足場に何とかホームズから離れた位置に着地。

「やるじゃないか」

「ホームズの方があっぱれだと思うが?」

 最近の戦いは防御壁に頼りすぎているな。そこを何とかしてみるのが、今後の課題だ。

 と言いつつ、防御壁を足場にした作戦を思いついたから実行した。空中に何個もの防御壁を展開しておき、そこを超スピードで移動して背後から──気合いの一撃!

 剣先がホームズのうなじに当たり、ホームズは剣を落として両手を上に挙げた。

「降参だ。剣術では勝ち目はないだろう」

 ホームズを鍛えるべきは剣術のみかな。俺は剣、もとい刀をうなじから離した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る