伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その肆

 ホームズとの戦いを終えて刀を回収すると、仁和がやって来た。

「ん、どうした仁和」

「作戦が出来ましたので、これから会議などをしようと」

 もう作戦が出来たのか。早いもんだ。

「なあ、仁和。輝宗を殺さなくても良いんじゃないか?」

「覚悟を決めたのではないんですか?」

「ああ。師匠が何とかしてでも助けてくれるかもしれないんだ。その可能性、あると思うが」

「異世界のシャーロック・ホームズという、彼ですか?」

「そうだ」

「まあ、その可能性も捨てきれなくはないです。しかし、すでに作戦が出来ましたので、一応当初の予定通りに進めてみませんか?」

 このまま輝宗を殺さない方法を考えているより、動いていた方が幾分いくぶんはマシか。

「一理ある。早速会議を始めよう」

「了解しました」

 今回はホームズにも会議に出席してもらった。こうして、俺、小十郎、景頼、愛姫、仁和、ホームズの六人が集結した。

 仁和は書類などを眺めながら、司会進行をする。「まずは私の作戦などを発表いたしましょう」

 おそらく仁和の作戦は、歴史通りのことをするのだと思う。俺のその読みは的中し、仁和は史実と同じことを話していった。やはり最後は、俺が輝宗を殺すこととなる。


 翌日、当主に俺が就任してすぐのことだ。俺の家督相続を祝うために、小浜おばま城の城主である大内おおうち定綱さだつなが俺の元にやって来た。

 定綱は伊達氏の宿敵の蘆名あしな氏・佐竹さたけ氏陣営に属していた。が、こちらに寝返ってきたのだ。

「このたびは伊達家の家督相続、おめでとうございます」

「うむ」

「これからは伊達家のために尽力いたします。つきましては、米沢城下に屋敷をたまわりたい次第です」

「なるほど。定綱殿の言っていることはわかった。米沢城下の屋敷を貴殿に差し上げよう」

「ありがたき幸せ。今夜はわたくしが家督相続祝いに酒などを振る舞います」

「毒は盛っていないだろうな?」

「はい。盛ってなどいません」

「ハッハッハッ! 面白い。ぜひ、貴殿の酒を飲んでみようではないか!」

「はっ! すぐにでも持ってきましょう」

 定綱は終始笑顔だった。よほど俺の機嫌を取りたいようだ。これも史実通りか。

 俺は定綱が寄越してきた酒を本人に飲ませ、それから俺も一口いただいた。

「うまいな」

「でしょう? この酒はなかなか手に入らないものでございまして、今回は特別に取り寄せたのです」

「やるではないか」

「ええ、もちろんです」

 この会話はいつまで続くのかとため息をもらすと定綱はすかさず、体調がすぐれないのですか、と尋ねてきた。

「そんなんじゃない。最近は疲れているからな」

「さようで......。ゆっくり疲れを取ってください」

「わかっておる」

 定綱はその後、かなり頑張った。俺が当主になったことを、全力で祝った。ここまでされるとありがた迷惑だ。だが、我慢しかない。今はこの苦痛に耐えなくては。

 史実だと、政宗は定綱を待遇たいぐうしたんだよな。そこはしっかりやらないといけないから、俺もこいつをもてなすとするか。

「定綱殿。食事を振る舞いたい」

「構いません」

 俺は定綱の食べ物を用意させ、持ってこさせた。その食べ物を俺が一口ずつ手をつけ、それから定綱は食べ始めた。

「美味しいですね。なかなか歯ごたえがあるのに、味がしっかりしています」

「そうだろうそうだろう。ここの料理人が、定綱殿のために腕にりを掛けていたんだ」

「それは嬉しいですな」

「頑張らんでもうまいもんが、頑張ってよりうまくなった。最高以外のなにものでもないだろう」

「その通りです」

 こうして満足した定綱は帰って行った。俺は奴に渡す屋敷の用意を始めた。

「仁和! 定綱にあげる屋敷はどこにするのがいい?」

「ここでは?」

「なら、ここにしよう」

 米沢城下に、定綱にあげるための新たな屋敷の建設が開始された。俺は建設に関わらないから遠目で見るだけだが、随分大変そうだ。重機もないから、本当にこの時代の建設は至難だな。人力だし、やらされる方もたまったもんじゃない。

 珍しく煙草を再び吸ってみたくなり、景頼のいる場所に向かった。景頼は二十一世紀の煙草を数万箱も持ち込んでいるのだ。蔵書は燃え去ったが、煙草は無事だったとうれし涙を流していた記憶がある。

「景頼。煙草を貸してくれ」

「煙草ですね? 私と同じく、七つ星で良いですか?」

「七つ星で大丈夫だ」

 久々の七つ星だ。前世で愛用した煙草が、こんな形でまた吸える時がくるとは思わなかった。

 景頼から煙草を受け取り、着火させてから口にくわえた。すると、廊下を駆ける足音がした。一瞬ビビったが、それが仁和だとわかるとホッと胸を撫で下ろした。

「何か用か? 屋敷は完成したのか? いや、まだ早いか」

「屋敷はもうじき完成するでしょう。間近です」

「それは良かった。仁和も一本どうだ?」

「結構です。......それより、重要な報告があります」

 仁和は呼吸を整えてから、閉じていた目を開いて俺を見た。「政宗殿に寝返ったと思われていた定綱殿が、再度寝返った模様。現在定綱殿は、また蘆名氏・佐竹氏陣営にいます」

 俺は煙草を手に持った。

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