伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その伍
定綱がまた寝返ったという報告を仁和から受けた。と言っても、予想はしていた。なぜなら、史実でも定綱は裏切っているからだ。
俺は冷静に、煙草を握りつぶす。
「思ったより早い裏切りだな」
「はい」
定綱が裏切ることは、仁和も作戦発表時に言っていた。だから俺は、まったく驚かない。
景頼に目を向けると、俺と同じく動揺はしていない。定綱のために建設中の屋敷がもったいないが、俺が私用にするか。
「仁和。まずは作戦発表の時にいたメンツを集めろ。成実は抜いておけ」
「わかりました」
仁和が去ると、景頼は煙草を捨てる。俺も窓から煙草を捨てて、身だしなみを整えた。
「では、また話し合いをしましょうか」
「そうだな。定綱の奴、俺達に利用されるとも知らずに。バカだ」
「ご隠居様を殺すにしても、まずは建前。ここまでは計画通りですね」
「ああ。輝宗をぶっ殺さずにしたいが......。歴史通りが一番良い。だろ?」
「そうですね」
景頼とともにいつもの部屋に行くと、すでに皆がそろっていた。仁和の行動は早かったようだ。
定位置に着き、前のめりになる。「皆知っているとは思うが、定綱がまた裏切った。史実だとまだまだ先に裏切るはずなんだが、おかしい。だから、俺が軌道修正する。実際は定綱が裏切ったのは年が明けてからだ。それまでは大人しくしていよう。以上!」
ここに集まった奴らは、きょとんとしていた。というのも、仁和の作戦だと、定綱が裏切ってからすぐに蘆名氏を倒しにいこう、というものだったからである。
「若様」仁和は見たこともないような、怒った表情を浮かべる。「それだと余計、歴史が変わってしまうのではないでしょうか?」
「いや、歴史を変えてはいけないのだ」
「それだとしても、今すぐに攻め入る方が得策だと存じますが?」
「そうでもないだろ? 考えてもみろ。このままやることを早めていくと、歴史狂っちゃうだろーが。繰り上げたらまずい」
「しかしですね、年明けを待っている間に向こうからワンアクションあったらそれこそ手の付けようがなくなります」
仁和の言い分も正しい。けど、ここら辺で歴史を軌道修正していかないと駄目だと思う。どんなに優れた軍配士だとしても、言うことを全て
歴史だと確か、年明けまでずっと定綱は米沢城にいたんだよな。その後、
つまり、年明けてからすぐに蘆名氏を滅ぼそうと動くのではなく、ちょっと経ってからだ。今すぐに行動に移す必要はない。
「良いか、仁和。今は大人しくする時だ。勝機は必ず回ってくる。それを待つんだ」
「──それならば、私達だけで
「え!?」
仁和は部屋を飛び出し、未来人衆と合流した。
チッ! 未来人衆を優遇していたが、奴らは二十一世紀の人間だ。武士の
主力である二階堂と忠義も消えるわけだし、この反乱は止めるべき。
「お前ら、仁和を止めろ!」
「「はっ!」」
仁和を止めに重臣総出で対応したが、立腹した仁和を止めるには至らなかった。未来人衆は武装して米沢城を出た。
小十郎は焦っていた(当然のことである)。「どうすんだ、名坂」
「未来人衆は元々、歴史には存在していなかったマル秘軍団だ。これ、なかったことにしない?」
「それが出来るならば苦労はしてないよ」
「そうだよな。少数で未来人衆を追いかけるぞ」
「少数?」
「俺と神辺、景頼、ホームズの四人だ!」
指名された三人は急いで準備を始めた。
このままでは未来人衆に歴史を変えられてしまう。急いで止めないといけない。止めた後、米沢城に連れ帰って一時的に
仁和の作戦は良いが、
四人で集まり、馬に乗って走った。
「政宗」ホームズは馬に乗りながら、首を掻いた。「馬車はないのか? なぜ僕が馬に乗らねばいけないのだ」
「馬車? 戦国時代は馬車ねぇよ。それに、日本じゃ馬車は珍しいんじゃないか?」
「そうか。......仁和達を追いかける必要はないんじゃないかな?」
「は? 何で?」
「あの程度の人数で蘆名氏に攻め込むのは無謀だと、彼女なら理解しているはずだ。何か他に理由があると考えるのが普通」
「言われてみると確かに。なら、何の用事で米沢城を出たんだ?」
「彼、彼女らは未来人衆全員で城を飛び出した。伊達家を裏切るような感じがしてくるね」
「裏切り!」
ホームズの言っていることは的確。いや、未来人衆が裏切るとしか考えられなくなってきた。怒っているように見せかけて、裏切る。やられた。
「ちっくしょう! 全力で追いかけろ! 捕まえて
俺は歯を食いしばり、馬を勢いよく走らせる。ホームズは少しニヤつき、俺の後に続いた。
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