伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その陸

 ある程度の距離を進むと、またホームズが話し出した。「政宗。本当に彼らが裏切るために全員で城を出たと思っているのか?」

「どういうことだ?」

「話しによると、政宗が連れ去られたことがあるのだろう? それは全て、彼らを指揮する彼女の作戦らしいじゃないか」

 確かに、仁和はバカではない。だから、もしかしたらこれも作戦の一つだとは考えられる。けど、あの兵力じゃ戦えない。仁和の作戦とは考えられない。

 仮に裏切っていると考えてみると、未来人衆に裏切るメリットはあるのか? 歴史だと、俺が戦いで圧勝している。未来を知っている未来人衆が裏切ることにメリットはないな。やっぱり、ホームズの言うとおり裏切っていないと考えた方が妥当か。

「一時米沢城に戻り、未来人衆の帰りを待とう! 引き返せ!」

 米沢城に戻ると、待っていた家臣らは驚いていた。それは別に良いとして、一人で部屋に入った。

 考えてみよう。まずは正しい歴史。俺が定綱から裏切られたのは年が明けてから。その後、蘆名氏を倒すと決意した。それから......小手森おでもりじょうでは八百人は皆殺しにしたんだよな。その他定綱の味方をする者を攻撃していった。それで、元々は伊達方であった二本松にほんまつじょうの城主・畠山はたけやま義継よしつぐにも敵意を向けたんだ。

 なぜ味方に敵意を向けたのか。それは、義継が裏切ったからだ。義継は俺が元服するより三年くらい前に伊達家に従ってきた。が、定綱の裏切りに乗じて大内氏に加勢した。それが原因で政宗は怒り狂った。

 というか、義継は今どこにいるんだ。義継の居場所を把握はあくしておかないと。

「小十郎! 小十郎」

「若様、お呼びですか?」

「小十郎よ、畠山義継の奴はどこにいる? 居城である二本松城にまだいるのか?」

「そこまでの情報は入ってきていませんが、おそらくまだ二本松城にいるかと」

「義継の動きを観察するために、数名を二本松城の元へ送って見張らせろ!」

「わかりました」

「義継にバレぬように見張るのだぞ」

おおせのままに」

「うむ」

 未来人衆が義継を殺しにいった可能性も捨てがたいし、義継の動きを観察して損はない。

 義継を未来人衆が殺しに行くとしたら、理由は裏切りか。未来人衆が俺に忠実だと仮定した場合、仁和は義継が裏切ると知っているわけだから、義継を倒す理由になる。未来人衆が問題を起こさずに帰ってくることを願う。

 義継が裏切る前に殺しちゃったら、未来人衆が裏切ったことになっちゃう。そしたら、家臣から反感が......。

 まあ、見張らせているから未来人衆が小手森城に近づいたら報告が来るだろうからひとまず安心しよう。

 小十郎は周囲に誰もいないことを確認する。「名坂。今、かなりまずいことになってないか?」

「まずいことになってる。まあ、部屋に入ってくれ」

「わかった」

 小十郎を部屋に入れると、扉を閉める。

「未来人衆が米沢城を飛び出した理由は、義継にあるかもしれない。義継を殺しに向かっている可能性がある」

「もし義継が消えたら、輝宗を殺す計画やばくないか?」

「やばい。仁和の作戦とか全てがパァになる。けど、自分の作戦を仁和自らが潰すことはないと思う」

「でも、未来人衆を止める必要はあるんじゃないか?」

「未来人衆全員は百数人いる。大人数での移動だから、時間も掛かる。一方、俺が小手森城に向かわせたのはごく少数の人間だ。未来人衆より先に小手森城に到着するはずだ」

「それなら良いか」

 小十郎は肩を落とした。

 仁和は後先考えずに行動はしない。多分、別の目的があった上で米沢城を出たんだ。小手森城に行くことはない。

「神辺」

「ん?」

「景頼から貰ったんだが、これいるか?」

「マンガか、これ?」

「未来からのものと聞いたんだが、俺はマンガ読まないから」

「懐かしいな! 未来に戻りたい気もするな」

「未来にはもう戻れない。諦めよう」

 小十郎にマンガを渡した。

 すると早速、小手森城に派遣した者から報告があったようだ。俺はまばたき出来なくなった。

「神辺。予想外のことが起きた」

「予想外?」

「未来人衆、小手森城に向かって馬を進めているらしい......」

「小手森城に!? 食い止めよう!」

「俺が派遣したのは少数だ。未来人衆全員を食い止める力がない。今すぐ大人数を向かわせる」

「だけど、大人数だと移動に時間が掛かるんじゃなかったか?」

「ああ。もう絶望的だ」

「転移しよう!」

「そうだな。転移しよう。人数掻き集めろ!」

「急ぐ」

 小十郎は未来人衆を食い止めるため、武力に特化した者を掻き集めた。俺はそこに加わった。

「小十郎は米沢城で待機していろ」

「はっ!」

 小十郎は戦いには不向きだ。

「この場での指揮は基本的に成実に任せる!」

 転移は一瞬だ。パッと周りの景色が変わる。そしてその景色の中に、馬に乗って駆ける未来人衆の姿があった。

 先頭の仁和は馬を止める。「政宗殿。何をしに来たのですか?」

「お前を止めに来たんだ。まさか、小手森城に向かっているとは思わなかった」俺はさやから刀を引き抜いた。仁和も構えて、体勢を整える。「覚悟は出来てるな?」

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