伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その弐

「つまり、こういうことですか?」仁和は口をひん曲げながら、頭の中で整理をした。「あなたは伊達輝宗をほおむり去りたい。が、建前が必要。だから、私に計画を立てろと?」

「殺さなくても良いんだ。せめて火縄銃の強化版の量産をやめさせたい」

 輝宗は、俺が権次と協力して作り上げた火縄銃の強化版を量産しようとたくらんでいた。だから、殺そうとは決意した。だが、別に殺さなくても口封じとかなら出来る。

 ただ、史実だと輝宗を政宗が殺しているし、やっぱり殺すしかないのだろうか......。

「なるほど、大体の事情はわかりました。残念ながら、殺すしかないでしょう」

「そう......なのか」

「では、計画を立てていきます。輝宗を殺す、ということで問題ないですね?」

「仕方ない」

 史実通りに歩むしか、道はないんだ。このまま、俺の知る限りの歴史と同じ行動をする。

 涙を抑えて、前を向き直った。

「計画はこれから取り掛かります。政宗殿は、その間に心の準備をしてください」

「わかった」

 仁和に伝え終わると、俺は部屋に戻るために廊下を歩いた。すると、見たことのある人物が現れた。

「やあ、政宗!」

「師匠!」

 俺が勝手に師匠と呼んでいただけだが、そこには以前に会った俺の心の師であるシャーロック・ホームズがいた。ホームズは俺に薬学知識を与えてくれたから、師匠と呼ぶくらい尊敬している。

「師匠というのは恥ずかしいな」

「会いたかったよ!」

 まずはホームズと握手をしてから、誰もいない部屋に入れた。

「どうしてこっちの世界に来ることが出来たんだ?」

「いや、それが、レイカーという神様によって連れてこられた。何が何だかわからないよ」

 レイカー。アーティネスの同僚の神様だ。そのレイカーが、ホームズをこっちの世界に連れてきた。何を考えているのだろうか。


 また意識が神界に来たことは、確かめるまでもない。辺りが真っ白で何もないのは、神界くらいしかあり得ない。しかし、いつもと違うことがあった。俺を呼び出したのはアーティネスではなくレイカーなのだ。

「名坂君。君にお願いがある」

「お願い?」

 実に唐突だ。だが、レイカーの顔はいたって真剣。無視するわけにもいかない。

「ああ、名坂君に重岡君を救って欲しいんだ」

「重岡......君?」

 俺は誰のことを言っているのかわからなかったから、俺は眉をひそめた。

「伊達輝宗のことだ。彼の前世は二十一世紀日本の家庭教師・重岡十吉。アーティネスによって酷い目に遭わせられるかもしれない。だから、重岡君を救って欲しい。そのために、異世界からシャーロック・ホームズを送り込んだ」

「え? ちょ、くわしく説明してもらわないとわからないぜ!」

 俺はその後、レイカーから説明を受けた。重岡十吉の人生の末路までと、転生後のこと。アーティネスが輝宗を始末するのではないかということ。何もかも聞いた。

「アーティネスを説得とかは出来ないのか?」

「彼女は次期太陽神の器。逆らえない。だから、ホームズを連れてきた」

「ホームズを連れてきたのなら、何か策はあるんだよな?」

「いや、ホームズを連れて行けって何となく言われたような気がしたからなんだ」

「つまり、無策で輝宗を助けろってか?」

「そういうことになる。名坂君にしか頼めないんだ。何とかして、重岡君を助けたい。

 元々は神界では人間を重んじていたんだけど、アーティネスが生まれてからは革命が起きた。今では人間を軽視している。だが、僕は人間保守派の神様なんだ。極力きょくりょくは人を殺したくない」

 輝宗を助ける。レイカーから、そうお願いされた。でも、計画はまだない。そこのところは名坂君が得意な推理を使ってくれ、とレイカーに丸投げされてしまった。ただ、輝宗の前世を聞いてしまったら、すごくかわいそうだと同情する。自然に助けたい、と思った。

「わかった、輝宗を助ける」

「それはありがたい!」

「ただ、出来る限りは協力してもらうぞ。それに、神様の仲間が欲しかったんだ。仲間になれ」

「やむを得ない。名坂君の仲間になる。出来る限りの協力もしよう」

「なら、契約成立。必ず輝宗を助けるからな」

「感謝するよ」

 話しぶりからすると、レイカーはアーティネスを恨んでいるんだ。アーティネスの好きにはさせまい、そう意気込んでいる。

 アーティネスは残酷である。牛丸を殺した張本人だ。俺だって、完全に許したわけじゃない。アーティネスへの復讐ふくしゅうにはうってつけ。

「全力で尽くす。力が及ばないかもしれないが、輝宗を救い出せるように努力する」

「名坂君は力があって強い。力が及ばないことはないんじゃないかな?」

「だと良いんだがな......」

「頑張って欲しい。頼む!」

 レイカーのお願いを受けた俺は、自分で作戦などを立ててみた。仁和ほど完璧な計画ではないが、我ながら悪くない。

 俺はこの時、師匠・ホームズが輝宗救出の鍵を握っているとはまったく思わなかった。が、実際は重要な鍵を握っていた。ホームズがいなければ、輝宗を救い出すのは無謀むぼうだ。

「地上の伊達政宗の体に名坂君の意識を戻すよ」

 レイカーが強く念じて、俺は伊達政宗の体に帰ってきた。

 当初は輝宗を殺す計画のはずが、今では輝宗を救い出す計画になってしまった。そんなことを考えながら、ホームズに視線を向けた。

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