伊達政宗、悪運の強さは伊達じゃない その玖

 暴れ回らないということに、ジョーが納得してくれて良かった。このままジョーを放置していたら歴史を変えてしまう恐れがあったが、もう大丈夫そうだな。まあ歴史が変わってしまっても、アマテラスに頼めばどうにかなりそうだ。

「さて、ジョー。俺はジョーのお陰で物などを透明にする技を手に入れただろ?」

「確かに、体を透明化させていたな」

「今回の戦では、この透明化の力がどれほどのものか試したいんだ。手伝ってくれるか?」

「もちろんだ!」

「よし、じゃあまずは仁和をここに呼んできてくれ」

「仁和? 誰だ、それは?」

「まだジョーには言っていなかったか。俺の参謀さんぼうみたいなもんだよ。すごく有能だ」

「政宗の参謀か。わかった、連れてくるぜ」

 ジョーは猛スピードで駆けていった。俺の全速力より断然速いペースだ。異世界の剣聖は伊達ではないということかな。

 数分もしないでジョーが戻ってきて、その肩に仁和がかつがれていた。

「政宗殿」肩から降りた仁和は無表情だったが怒っているようだった。「急に私を連れてこようとしないでください」

「え、いや、俺はジョーに『仁和を担げ』とは言っていない。『仁和を呼んでこい』って命じただけなんだが......?」

「命じたのは政宗殿なのでしょう?」

「そうなんだけどさ、ほら」

「そんなことより、早く用件を伝えてください。私もいそがしいのですよ」

「それは悪かったな。まずは用件を伝える。仁和、今片栗かたくり持ってる?」

 この透明化を試すには、まずは片栗粉を使いたいところだ。ちょうど近くに川もあるし、透明化を試すには持ってこいの場面なんだが。

「片栗粉ですか?」

「そうだ。その片栗粉が必要なんだ」

「片栗粉は米沢城にあると思いますよ。どうやって片栗粉を取りに戻るかはわかりませんが」

 米沢城にあるのならば、取りに戻るにはかなり時間が掛かる。ならば、アマテラスに頼むのが最善だな。

 アマテラスを呼ぼうとしたら、急に目の前にアマテラスが現れた。

 巨体のアマテラスは俺を見下ろした。「呼んだかな?」

「行動が早えな、アマテラス!」

「お前の心を読んでいたからだ。小説を書いている途中だったけど、急いで来たんだ」

「それよりも、頼みたいことがある」

「米沢城への瞬間移動ならやってやるが、どうする?」

「それはありがたい。俺と仁和とジョーを米沢城に送ってくれ」

 一度うなずいたアマテラスは、指を鳴らした。すると周囲の景色は見覚えのあるものに変わった。その景色は、まぎれもなく米沢城のものだ。

「仁和、早く片栗粉を大量に持ってきてくれ」

「は、はいっ!」

 その後俺達は城中を走り回り、大量の片栗粉を掻き集めることが出来た。


 それから数時間後のことである。重臣らを後方に集めて、指示を出した。

「良いか、お前ら? お前らの部下に、これから川を渡るように命じてくれ。川には渡れるような細工をしてあるから、お構いなく川の上を走って行け」

「「!?」」

 俺の意味不明な指示に戸惑とまどいつつも、一応は首を縦に振った家臣達。さて、これから実験だ。

 透明化の力を試すために、俺の家臣達には川の上を走ってもらう。どういうことかくわしい説明は後回しにして、まずは川を足だけで渡ってもらいたいのだ。

「川の上では歩くな! 必ずおぼれるから!」

 歩かないように忠告もした。これで川の上を歩いても俺は知らない。ちゃんと俺は忠告したのだから、川の上を歩いた奴が悪い。

 ちなみに、細工した状態の川の上を歩くと、底なし沼にはまったように溺れる。多分辛いことだと思う。俺は助けないからな。

「よし、じゃあ戦の前線に戻れ。俺が合図をしたら、配下を引き連れて川を渡ってもらいたい。走ったら溺れないと俺が保証する」

 そう言うと、若様が言うならばと家臣達の表情も晴れてきた。笑みを浮かべる奴もいたが、そいつは緊張感がなさすぎる。

 俺とジョーはある程度手加減をしながら最前線に復帰し、目にも止まらぬ早さで敵を倒していった。

「やるな、ジョー!」

「政宗こそ」

 ジョーは確かに強い。確かに強いのだけれど、戦い方は蒙古もうこ襲来しゅうらいの時の日本と同じだ。

 蒙古襲来の頃の日本は、武将が一人ずつ名乗り出て一対一で戦うのが主流だったのだ。ジョーもそれと同じで、敵と戦うために『やあやあ我こそは、ジョセフ・ウィリアム=ヘルダーである!』と言っている。おそらく、ジョーの元いた世界ではそのような戦い方が主流だったからだ。

 その点を除いたら、ジョーは格好良い。まあ、それが言いたかったんだ。

「全軍に告ぐ! 我が軍の者は、必ず川を渡れぇ!」

 俺が川の方を指差すと、全軍が川へ突進するように走った。俺も負けじと川へ向かって走り、先頭に立って川を渡った。俺が実際に川を渡ったからか安心した家臣達は、嬉々ききとして(いたわけではないが)川の上を走った。それを見た敵方は、少し狼狽ろうばいしていた。

 ふむ、この透明化の力がどれほどのものか、ということは今回の実験で大体わかった。それじゃあそろそろ、史実を辿って物語を進めていこうではないか。

 そして、敵方の一人が「伊達軍が奇術を使ったぁ!」と叫んだのであった。

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