第五章『奥州の覇者』

伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その壱

 人取橋の戦いによって、二本松城を俺が手に入れた。歴史通りだと、成実がこの城の城主になる。ならば早速、成実に二本松城主を押しつけようか。

 世界を手中に収めるとかいう約束をしたばっかの小十郎は、あくびをしながら床に腰を下ろした。

「座るなよ、神辺」

「え? 別に良いじゃん。だってさ、この二本松城は伊達氏のものになったんでしょ?」

「つっても二本松城の城主はお前じゃねーよ」

「じゃあ誰だよ」

「成実が二本松城の城主になる予定だ」

「ふーん、成実かぁ」

「あのなあ......成実は一応俺達を転生者だって知ってるんだ。それに伊達政宗とは血縁者だし、そう毛嫌いするなよ」

「いや、嫌ってはないんだけどいけ好かないぜ」

 小十郎は成実のことが好きではない。成実は小十郎よりもすごく優秀な側近だし、嫌う理由もわからなくはない。ただ忠臣の二人の仲が悪いとチームプレーが出来なくなる。早く仲良くなってほしいものだ。

「ほら、立てよ神辺。早く降りて皆と合流するぞ」

「皆もここに連れてこよーよ。ここからの景色を見ないと損だぞ」

「まあ、それもそうか。未来人衆とか夜行隊とかを連れてくる」

「おう、任せた!」

「お前も来いよ。家臣が当主をぱしりにしたら騒ぎになるから」

「めんどいな」

 渋々だが小十郎は立ち上がり、服を整えながら部屋を出た。俺も部屋を出ると、小十郎のあとに続いて歩いた。外に出たら未来人衆と夜行隊が率先そっせんして皆をまとめ上げていたので、仁和と舞鶴を呼んで褒め称えた。

「二人とも良い心がけだ」

 仁和は腕を組み、首を傾げた。「私、何かしましたか?」

「は? 仁和達がまとめ上げたんだろ?」

「いえ、まとまったのは皆の頑張りあってこそ。私達は指示したに過ぎませんから」

「ええ」舞鶴も相づちを打つ。「その通りです」

 俺は思わず笑みを浮かべる。「成長したな、お前ら。──あ、そうそう。二本松城のてっぺんから見える景色を見え来いよ。綺麗だから」

「「わかりました」」

 人取橋の戦い、つまり二本松城攻めはここに終わった。伊達政宗軍は百人余りの兵士を失う痛手を食らうも、蘆名氏・佐竹氏連合軍の撤退という悪運によって勝利を収める。

 伊達家老臣・鬼庭良直は人取橋の戦いでは死ななかった。俺がそうさせなかったのである。

「成実、成実はいるか?」

「お呼びでしょうか?」

「そうそう、お呼びお呼び。この二本松城は伊達氏の、正しくは俺の所有物になった。城主は誰にしようか考えていたんだが、成実に任せてみることにするよ」

「私が城主を!?」

「え、嫌だったのか?」

「いえ、嬉しい限りでございます! この役目、ぜひとも私に任せてください!」

「頼んだ。期待している」

「は! 承りました!」

 んじゃまあ、米沢城に戻るか。配下の奴らの馬も元気になったところだろう。輝宗の墓にも伝えに行かなければいけない義務もある。

「米沢に帰ろう。馬に乗れ!」

 俺もウルトラウィークの背に飛び乗り、頭を撫でながら走らせた。敵方の死体の山を横切り、血の臭いがしないところまで進んだ。

 俺は伊達政宗に転生してから何人殺してきたのか。今となっては知る手段はないが、俺は罪深い奴だ。

 血の臭いが感じられなくなると馬を止めて、森の方に目をやった。

「舞鶴!」

「何でしょうか?」

「勇の奴は、今はどこにいると思う?」

「リーダーですか? リーダーなら、渡されたお金で町に出て食い扶持ぶちとなる仕事でも探しているのではないでしょうか」

「米沢の城に来て俺に頼ってくると思うか?」

「リーダーは誇り高い人なので、かなり大きなことがなければ頼っては来ないと思います」

「そうか。もし勇が米沢城に来て頼ってきたら、夜行隊に入れても良いか?」

「それを決めるのは若様であって私ではありません」

 馬はまた歩みを進め、いつの間にやら米沢城に到着していた。俺は城に入ると、自室の床で寝そべってこめかみを人差し指の先で軽く叩いた。

「輝宗の墓ってどこにあったっけ?」

 埋めておけと命じたのは覚えているが、どこが墓なのかは記憶にない。まずい、これはまずいな。輝宗の墓の場所を家臣に聞いたら、父の墓を忘れるような駄目な当主だと思われてしまう。

 聞くとしたら小十郎か景頼。ただ小十郎は人取橋の戦いで疲れているようだったし、景頼にでも聞いてみようか。

 廊下に足を踏み出してから景頼を探すと、あいつは刀に手入れをしていた。

「景頼は真面目だな」

「若様、お久しぶりです。今回の戦の勝利、おめでとうございます」

「おう、そうだな。んでさあ」

「何用でございましょう?」

「輝宗の墓ってどこにあるんだっけ?」

「あのお方は資福寺にて眠っておられます」

 そうだった、輝宗は資福寺にいるんだ。虎哉宗乙が住職をやってる寺だったな。

「おう、じゃあ資福寺に行ってくるよ」

「はい、行ってらっしゃいませ」

 俺は綺麗な花をはなむと、虎哉が住職をする資福寺に訪れた。

 虎哉は驚きつつ、笑みを浮かべた。「若様、立派になられましたね」

「師匠こそ立派ですよ。私は一生、あなたを超えることは出来ません」

「ご謙遜けんそんを。此度こたびの戦も勝利へと導いたのは若様ではありませんか。ところで、本日はどのようなご用で?」

「父上に会いに来たのです」

 小刻みに何度かうなずいた虎哉は、輝宗の眠るところまで案内をしてくれた。俺は花をえると、まぶたを閉じて深く頭を下げる。

「二本松城攻めは無事終わりました、父上。これからも私の活躍を見ていてください。私は天下の覇者に、いえ......隻眼せきがんの覇者となってみせましょう!」

 隻眼の覇者は伊達じゃないところを見せてやる。

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