伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その陸捌
俺は今、洞窟の中で地面に横になりながら転がっていた。その理由は体調を崩したからだ。なぜかって? 洞窟内に流れている水を、喉が渇いていたので飲んでみたからだ!
魚はうまかった。非常にうまかった。そんでもって調子に乗り、煮沸もせずに川に顔を突っ込んで水をガブ飲みしてみた。その結果、今に至っている。
「ちくしょおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!」
俺の叫びは洞窟内で反響している。マジでここどこだよ。アマテラスも助けてくれないし、仁和ならその内助けに来るだろうと思っていたが、まったくその気配がない。
「誰もいないのかよっ!? さっきからずっと独り言つぶやいてるけど、これじゃあ俺が変な人みたいじゃないか!」
『いや、政宗はもう立派な変な人じゃないか』
「アマテラス! お前もいきなり話し掛けるな!」
『ん? 政宗が寂しそうにしていたから話し掛けたというのに。ならば我は政宗が洞窟を出るまで静かにしていよう』
「待て待て待て! それだと俺が寂しくなるから待て!」
『仕方ないなあ。政宗の頼みならば仕方ない。ああ仕方ない仕方ない』
「何かムカつくが、まあ良い。それより洞窟から出たいんだが、マジで手を貸してくれないのか?」
『なら聞くが、我が手を貸せば政宗が何もしなくなるだろ?』
「そうだな」
『そうすると我が面白くなくなる』
「そんな理由かよ。腹減って死にそうになったら助けくれるのか?」
『アリやコウモリがまだいるじゃないか。餓死する可能性は低いと思うが?』
「いや、俺はゲテモノを好き好んで食らう趣味じゃないんだよ」
『極限の空腹状態になれば体が勝手に動いて捕食することになるだろう。我が介入するまでもない』
「この野郎! お前は鬼か!?」
『我は全知全能の神であって、あんな戦闘能力にステータスを極振りしたような気性の荒い鬼神などではないぞ?』
「何気に鬼神への悪口が入っているなあ、おい」
『鬼神とは馬が合わんからな。奴らのことは嫌いだ』
「お前でも
『あいつらは狂人の上に馬鹿げた戦闘能力を持っているからな。神界でもかなり浮いた存在だ』
「神にもいろいろな奴がいるのか」
そんなこんなで無駄話をして、眠くなったので会話を中断する。明かりを少し離れたところに置き、地面に寝転がって体を丸めた。
「俺は寝る。アマテラスもおやすみだな」
『神は寝なくても良い体だ。寝ずに政宗の夢の中に現れてやろう』
「それだけはマジでやめて!」
そんな俺の言葉を無視し、アマテラスは夢の中でも現れやがった。けれど夢の中でアマテラスからいろいろな面白い話しを聞いた。案外楽しかったのは秘密である。
それから何日かコウモリや魚、アリなどで食いつないでいた。食後は洞窟内を動き回って出口を探し、腹が減ったら川で事前に捕まえていた魚を食べる。
そんな生活を続け、俺はコウモリを食べている時に仁和に言われていたことを思い出した。
「コウモリが暗い場所でも飛べる理由って、目が良いからじゃなくて超音波を放って反響する音を拾って立体的に周囲を知覚していると仁和が言っていたな」
そのコウモリの能力の名前は確か''エコーロケーション''だった。動いているものも知覚することが可能らしく、その原理はドップラー効果を用いているようだ。
仁和が言うにはドップラー効果は、救急車がサイレンを鳴らして目の前を通り過ぎる際に音が変わる現象のことを指している。音の発生源が近づいてくるのと遠ざかるのとでは音の周波が変わるので、それを利用してコウモリは周囲の物体がどの方向に動いているのかも知覚出来る。
なぜ俺がこんなことを思い出しているのかというと、人間は努力次第で後天的にエコーロケーションを身につけることが可能らしい。
盲目の人は聴覚を頼りに周囲を感じ取るので、エコーロケーションが後天的に自然に身につく。盲目でない人も練習すればエコーロケーションが行える体になる。それを使えば、洞窟の地形を把握して出口が見つかるかもしれない。
俺は急いで立ち上がると、このエコーロケーションの練習を始めた。ひたすら声を発し、その反響音を聞き取るという練習だ。練習の甲斐あって数日でエコーロケーションを習得し、難なく洞窟の外に出られた。
「久々の外だぜ、ヒャッホウッ! 俺がいなくなって何日経過しているか知らんが、寺には早めに戻らないと」
使い慣れたエコーロケーションを使って寺の方向を探ると、なぜか寺の前で戦闘が起きていた。誰が誰なのかエコーロケーションで判別するのは難しいが、おそらく鎧を纏って寺の入り口付近で陣を展開しているのが仁和達だろう。
仁和達が迎え撃っている敵の人数はそれほど多くはないな。先頭で偉そうに腕を組んでいるのは体格的に女で、その女と会話しているのも女。しかもこの二人は武装していないようだ。
非武装の二人の後ろには五人が控えている。その控えている五人の内の一人の体格や所持する得物に、俺は見覚えがあった。数日前にエリアスを狙って攻めてきたカルミラと背格好などが一致している。
「魔女教が攻めてきている、だと!?」
俺が洞窟に閉じ込められている間に、一体全体何が起こったと言うんだ。
嫌な予感がした俺は駆け足で森の中を走り抜け、球体を親指で弾こうとしているフードの男の頭上に飛ぶ。それからかかと落としをフードの男の頭にヒットさせ、態勢を保ちつつ地面に足をつけた。
そして振り返り、九頭竜を守るようにしていた仁和とエリアスを見てサムズアップをする。
「何か知らんが、九頭竜を守ってくれたみたいだなっ!」
顔を上げて俺を見た仁和の表情は固まっていた。急に出てきた俺に驚くのはわかるが、俺はいまいち状況を理解していない。
まずは九頭竜に攻撃しようとしていたフードの男の胸ぐらを掴むと、そいつを睨みつける。
「テメェ、何で九頭竜に攻撃しようとしやがった? あ?」
フードの男は困惑していたが、そのフードの男を押しのけてとある女が短刀の刃先を俺に向けてきた。
「久しぶりね。やっとあなたの臓物を引き抜く機会が巡ってきたわ」
その女の声を聞いただけで、体が拒絶する。その女とは、何か知らない内に感情の得たらしいカルミラだ。こいつの思考回路は狂っているので、二度と会いたくなかったが......最悪だ。
俺はカルミラから後退すると、驚きから立ち直った仁和から刀を受け取る。
「政宗殿、なぜこのような絶妙なタイミングで戻ってきたのですか?」
「多分主人公補正とか何かの力が働いたんじゃないか?」
アマテラスのような全能の神やそれに類する存在が介入し、運命を操っていたとか。あり得るかもしれんが、可能性としては低そうだ。
「そんなことより、敵は魔女教か?」
「ええ、そのようです。先ほど政宗殿がかかと落としを食らわせたフード男──実験体245番は親指で球体を弾いただけで、もの凄く加速した球体が飛んでくるので注意してください。かなりの威力です」
「仁和ならフードの男の攻撃の原理はわかるか?」
「まだ正確にはわからないです」
「原理は今は関係ないな。思いっ切りぶっ飛ばしてやろうか!」
鎧を装着していない俺は、新しく手に入れたエコーロケーションを駆使して目の前の敵の行動を常に捉えつつ、刀だけ握って敵陣に突っ込んでいった。
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