伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その弐漆

 輝宗は腰を押さえていた。こっちの世界では父親である輝宗を殺すことは、俺には出来ない。......心が痛くなる。ちゃんと助けなければいけないな。

 俺は虎哉と仁和、小十郎の元へ戻った。皆黙々と食べていた。仁和と小十郎に関しては、もうすぐ戦を始めるってのに呑気のんきな奴だ。

「師匠。少々用事がありますので失礼します」

「ええ、わかりました」

「小十郎、着いてきてくれ」

 小十郎は一度だけうなずき、俺のあとを着いてきた。俺はクリスマスパーティーに使っている会場を出て、廊下を進みながら口を開く。

「年明けから戦を開始する」

「らしいな」

「そのことについて、くわしく神辺に説明をする。部屋に入れ」

「わかった。久々の戦だけど、万人ばんにんをなり振り構わず殺す、と聞いたけど本当か?」

「部屋で説明をしよう」

 部屋に入ると、俺は神辺を見ながら扉を閉めた。

 神辺は眼を鋭く光らせた。「万人をなり振り構わず殺すって本当なのか?」

「史実ではそういうことになっている」

「それを実際に実行するつもりか?」

「そんな酷いことはしないから安心してくれ。これからくわしく説明する」

「頼むよ」

 俺は小十郎に、井原とレイカーと俺の三人で話し合った結果を丁寧に伝えた。それを真面目に聞いていた小十郎は、眉毛をハの字にさせた。

「年明けから戦をすることはわかった。ただ、輝宗をどうやって助けるかがまだ決まってないじゃないか。どのようにして輝宗を助け出すつもりなんだ?」

「三人で話し合ったものの、結論は出なかった......」

「まずいじゃないか。行き当たりばったりで戦を開始するっつのかよ」

「そういうことになる。ただ、レイカーいわく、何とかなるそうだ。もう時間もないし、行き当たりばったりでやってみないか?」

「それしか、もう時間はないな」

「やるしかないんだ」

 小十郎はギリギリまで悩んだ。どうすればいいのか、自問自答した。頭を掻きむしって、うなった。それでも俺にしたがうのが最善と考えたのか、最後には『うん』とだけ口からもらした。

「よし、それで良いんだ。早速だが、もうすぐ年が明ける。今日中に隊を編成しろ。指揮権の一部を小十郎に渡す」

「わかった。今日中に編成すれば良いんだろ?」

「そうだ」

「よし! 行ってくる!」

 小十郎は腕をまくり上げて、部屋を飛び出していった。


 年が明けた。正月である。

 俺は早朝に飛び起きて、事前に小十郎が編成した隊を見回す。

「仁和と小十郎に前方の隊の指揮を一任! 景頼と成実は前方警戒! 忠義と二階堂は仁和の隊から独立して後方を警戒! 仁和の目下の隊は、仁和の指揮に従って四方を警戒! 井原は中央部で隊とともに進行! 総員、前進だ!」

「「はっ!」」

 馬にまたがった皆は、俺のあとに続いてきた。もっと加速させ、反伊達政宗派の近隣大名の領地まで向かった。俺は視野しやを広げ、警戒をおこたらない。

 それから、出会いざまに蘆名あしな氏に繫がっていると思われる軍隊を攻撃した。そして、そいつらから逃げるように馬を走らせた。

──小浜城。

「ここは定綱の小浜城だ! 攻め入れ!」

 俺の掛け声とともに、小浜城の門を破るために突進とっしんを始めた。何千人が束となってようやく門を破ると、定綱の配下の奴らが武装して待ち構えていた。

「忠義率いる遠距離射手部隊! 矢を矢を放てぇ!」

 俺の後方から何千という矢が前へと繰り出された。その矢の一部は数百人に刺さり、落馬する者もいた。俺は絶好のチャンスと見た。

「仁和! 指揮をして突撃しろ!」

「人使いが荒いですね!」

 仁和は馬を進めて、未来人衆を前進させた。速攻部隊は速攻で定綱の軍をっていった。さすがは未来人衆だ。仁和によって戦での戦い方が身に染みているじゃないか。俺も負けてはいられないな。

「成実と景頼は俺に着いてこい!」

 俺は鞘から刀を抜いた。前に進むと、定綱の配下はニヤニヤと笑い出した。多分、俺が直々に進んできたから、首が取れるとでも思って喜んでいるんだろう。戦国時代は手柄を立てた奴が勝ちって世界だからな。

「テメェら、俺を舐めてんじゃねぇぞ!」

 俺には奥の手があるんだ。仁和のお陰で取得して、それからたびたび助けてくれる秘技だ。

「防御壁展開!」

 これで俺は死ぬことはない。成実は戦に強く、景頼も負けることはない。これで押し切る。

 刀にも、いつも通り防御壁を展開。馬で走り回りながら人を斬っていく。そして敵の鎧を貫こうと刀を当てた時だった。防御壁の防御力が高すぎて、刀の耐久力が届かなかったようだ。刀は真ん中から折れた。

「あっ!? 折れた!? マジかよ!」

 余分に刀を持ってきていればと後悔をした。ただ、これでも攻撃出来ないだけで防御壁はあるから死にはしない。

「成実! 刀、持ってるか!」

「すみません、この一本しか持ち合わせていません」

「ああ。──景頼は持ってるか?」

「いえ」

 まいった。どうやって攻撃をしようものか。この中でチート級能力を持っているのは俺だけだし、俺が攻撃した方が一番手っ取り早く敵を殲滅せんめつ出来る。

 俺は鞘を掴んで、何とか防御力を高めて攻撃出来るくらいにこしらえた。

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