第四章『輝宗の死』
伊達輝宗、走馬灯を見るのは伊達じゃない その壱
俺は伊達輝宗。前世は二十一世紀の日本で暮らす、ごく普通の男だった。前世での名前は確か、
いろいろあって、伊達輝宗に逆行転生。そうして、今に至ってしまった。
目の前には伊達輝宗の息子である伊達政宗。火縄銃の銃口を向けられている。
「父上。死んでください」
「ま、政宗!」
発砲された火縄銃の銃口からは、銃声とともにまさしく弾丸が放たれた。その弾は、俺の頭を目掛けて飛んできた。その時、前世を含めた俺の人生の走馬灯が見えた。
俺はごく安全な日本に生まれ、日本で育った。家庭は安全とまでは言えなかったが、何とか半世紀以上を全うした。
幼い頃から父親は怒りやすかった。幼稚園生の時から殴られたりしていた記憶はある。親父が怒る時は決まって、母か俺を殴った。特に俺だったが、だからと言っても母も頻繁に殴られていた。歳の離れた姉が一人いるが、姉は親父に可愛がられていたからうらやましい限りだった。
そんな親父に嫌気が差した母は、姉を親父の元に置いて俺と二人で夜逃げした。小学三年生にはやっと家に居場所が出来て、安堵していた。
通っていた小学校も転校し、これから少しずつ楽しい人生にしていこう。ただ、神様ってのはそう優しくもなかった。転入してきた俺を
それでも通い続けた。いつかは友達が出来るだろうと信じていた。
中学校に進むと、俺が望むような友達も出来始めた。やれやれと安心していた俺を襲ったのは、またいじめだった。
トイレで袋叩きにあうのはしょっちゅうだ。それでも、友達がいたから何とか通えていた。友達の友達も友達となり、友達の輪は広がっていったかに思えた。
しかし、それすらも神様は許さなかった。友達は皆、いじめっ子の側に寝返ったのだ。
放課後の日課となりつつあった、トイレでの袋叩きに友達も加わって俺を蹴り飛ばす。その
「おい十吉。お前の友達(嘘)が何でお前のことを殴っているのか知ってるか?」
いじめっ子のからの質問だった。
「友達(嘘)......!?」
「お前気付いてねーの? お前と友達ごっこしてた奴らは、俺達の仲間だ。お前はまんまとはめられたんだよ! ギャハハハハ!」
友達だと俺が錯覚していた奴らの顔は、満面の笑みであふれていた。何でここまで絶望を味わわされなければいけないんだ。俺は自分の運命を呪った。
こういうことがあれば、誰でも不登校になるのが当然のことだ。自室から一歩も出ない日々が毎日続いた。
こうなると母も心配していた。だけど、母には迷惑を掛けられずいじめられていることは打ち明けなかった。すると、母の精神は次第に病んでいった。一生懸命育ててきた息子が、不登校になるのだ。いじめの事実を知らないなら、これも当然のことなのだ。
毎日、俺は母から殴られるようになった。そうなると学校に行きたくなる。俺は学校に行くようになった。
いじめっ子達は標的が帰ってきたことに驚き、喜んだ。トイレでの袋叩きという日課も復活し、母といじめっ子達からやられた傷が増える。俺が学校に行っていなかった間にいじめっ子達からいじめの標的にされていた奴も、トイレの袋叩きにいじめっ子側として参加。日に日にいじめっ子側になって俺を殴り飛ばす奴は増えていった。
耐えた。中学校卒業まで耐え抜いた。高校は、いじめっ子達でも入れないような偏差値の高いところを受験。見事合格し、通えた。高校ではやっと、真の友達が出来た実感があった。
「おーい、十吉! 今日さ、ゲームセンター行こうぜ!」
こいつはクラスメイトの
この高校は頭が良いからかいじめっ子もいない。俺には居心地が良かった。
母は相変わらず気が狂っていて、ついに精神科医の元へ通うようになった。
高校になってやっと、普通の人生を送れるようになってきた。俺は笑顔で、ゲームセンターに行くことを了承した。
「放課後、ゲームセンターに現地集合?」
「何言ってんだよ十吉。一緒にゲームセンターに行こうよ」
「だな」
電車に揺られて、ゲームセンターのある駅で下車。二人でゲームセンターに入り、対戦ゲームを見つけて甲太郎とバトルをしたが完敗。
「甲太郎、お前強いな!」
「ハハハ。十吉が弱いんだよ」
俺は負けず嫌いだ。ゲームセンターにあるゲームで、なかなか勝てなくて、勝つまでやろうと一日に五千円も費やしたことがあった。
『十吉。もうやめようぜ。そろそろ帰らないと......』
『こいつを倒すまでは帰れない!』
『おいってば!』
その日は甲太郎に無理矢理家まで連れて行かれた。そのお陰で、無駄遣いせずにすんだ。
俺は無駄遣いした日のことを思い出しながら、口を開いた。「甲太郎。次はこっちのゲームで対戦だ」
「また十吉は負けるんだろ?」
「次は勝つさ」
勝つと豪語した挙げ句、また負けた。それでも、友達がいなかった頃に比べて楽しい毎日なのは本当である。
次の日も、甲太郎にゲームセンターに誘われた。俺は同意して、また行きつけのゲームセンターに向かった。対戦ゲームでもう一度勝負だ、と甲太郎に言ってから、カバンから取り出したサイフを開いた。すると、朝サイフに突っ込んだはずの一万円札が二枚なくなっていた。
「誰が盗んだ!」
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