伊達輝宗、走馬灯を見るのは伊達じゃない その弐
サイフから二万円が抜き取られている。誰が犯人だ!?
「甲太郎。お金が抜き取られた!」
「はぁ? マジかよ!」
「今日のゲームセンターどうする?」
「出来なくね?」
俺は友達からお金を借りるようなクズにはなりたくなかった。だから、俺は甲太郎に謝ってから家に帰った。
翌日。一人で犯人探しを始めた。サイフはずっとカバンの中に入れていて、カバンは棚の上に放っていたから誰でも盗める状態だった。まずは容疑者を絞り込もう。
俺の通う高校では、他のクラスの教室に入ることは禁止されている。だから、他クラスの奴が俺のクラスの教室に入ると目立つ。犯人は必ず俺のクラスメイトの中にいる。そう思って聞き込みを続けた。だけど、なかなか怪しい人物を見つけるには至らなかった。そんな時に有益な情報が飛び込んできた。
「昨日棚に置かれていたカバンなら、井原が漁ってサイフから万札を取り出していたな」
「本当か!?」
それで俺は絶望をまた味わった。また、裏切られたのだ。その時は自分の運命を呪った。
井原は優しい奴だったから、まさかそんなことをするなんて思わなかった。だけど、認めるしかない。
俺は甲太郎の元へ向かった。
「お、どうした十吉?」
ヘラヘラした甲太郎の顔を、思い切り蹴り飛ばしてやった。「テメェは最低な奴だ。二度と俺に近寄るな!」
「はあ!?」
それからカバンを背負って、まだ授業は残っていたが家に逃げ帰った。また不登校となり、殴ってくる母に抵抗して腹に蹴りを入れた。
母もやっと、俺が今まで殴ることを我慢していたことに気付いたようだ。俺は母に抵抗してなかっただけで、母くらいなら余裕でノックアウトする力を持ち合わせている。
母と俺の上下関係は一転した。俺が家の中で頂点に君臨したのだ。
走馬灯が消え去る頃には、俺はすでに事切れていた。そうして目覚めると、一度訪れたことのある真っ白な部屋の中にいた。目の前には、犠牲神と名乗っていた女神が仁王立ちをしている。
「重岡十吉!」
「アーティネス......?」
「私を覚えていましたか。随分と久しいですが、数十年を経ての再会というものです」
「そういえば!」俺は勢いよく立ち上がった。「俺は息子に殺されたのか!?」
「記憶はちゃんとあるようですね。あなたは二度目の人生を最悪の形で終わらせました」
「何で俺が殺されなきゃいけないんだ!」
「言うほど大したことではないです。あなたは伊達輝宗の人生を生き抜き、ある程度戦国期の日本人類に貢献をしました。この
「転生、か。なら次は、二十一世紀の安全な日本で、裕福な家庭に育ちたい。周りの人達は全員優しい人でお願いします」
もう前世や今世でのようなことは嫌だ。第三の人生では楽に裕福に
「かなりケロッとされていますね。まあ、良いでしょう。転生はさせますが、その前に前世でなぜ死んだのか、今世でなぜ政宗に裏切られたのかをよく考えてみるべきです」
「前世で死んだ理由。それは......」
「おやおや、お忘れですか?」
前世で俺が死んだ理由。今世を全うして直後だから、記憶が定かではない。思い出せ。走馬灯の続きを見れば良いんだ。
─────
真の友達だと思っていた甲太郎を殴り飛ばしてしまった日から、数日が経過していた頃。家のインターホンを押した者がいた。母は仕事にいっていて、その時は渋々俺が玄関の扉を開けた。
「あ、十吉!」
俺の家を訪ねてきたのは甲太郎だった。
「今さら何の用だ? 絶交したはずだが」
「すまなかった! お金を盗んだのは確かに俺なんだ。だけど──」
「お前の面なんて二度と見たくねーんだよ。わかったらとっとと失せやがれ!」
「十吉、返すよ」
甲太郎の、胸ポケットをいじくっていた右手には一万円札が二枚握られていた。
「本当にお前だったんだな、ガッカリだぜ」
その一万円札を見た俺は、急に怒りがこみ上げてきた。そして気付いた時には、甲太郎の体は宙を吹っ飛んで数メートル先に倒れた。
「じゅ、十吉! 俺......は──」
「じゃあな。甲太郎とは二度と会うことはないから、これが
「待ってくれ!」
「待たん」
その勢いで扉を閉じて施錠。ついでにチェーンロックを掛けた。窓から覗かれることも考慮して、全窓のカーテンを閉めて部屋に電気を点けた。
だだっ広い部屋の真ん中にしゃがみ込み、一万円札を見つめながら涙を流すだけの俺がそこにいた。
─────
「あなたが前世で
「自殺!?」
「そんなことすらも覚えていないのですか? 脳にかなりのショックがあったんですね。息子に裏切られたことが、そんなにショックでしたか?」
「当然だ......。もう''裏切られる''ことだけは嫌なんだ」
「現実を受け入れてください。良いですか? あなたは井原甲太郎に
俺が裏切る!? 俺はそんなことはしていない! いや、まさか......!!
「俺が甲太郎を裏切ったの、か?」
自分で言ったことだが、俺が甲太郎を裏切ったのだと自覚し始めると鳥肌が立ってきた。
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