伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その伍弐

 俺は仁和の元まで走り、死者蘇生と生命の魔女について軽く耳打ちした。

「政宗殿、それは本当なのですか?」

「慧が言うには本当らしい」

「では三人で話し合いましょう。これは重要なことですから」

「俺も賛成だ」

 二人で慧を寺の外へ連れ出すと、生命の魔女についてくわしいことを話すように頼んだ。なかなか話してはくれないと思っていたが、慧はあっさりと生命の魔女について教えてくれた。

「生命の魔女様は''原初の魔女''と呼ばれる魔女の一人です。世界を終末へ導き、全てを初めからリセットさせるほどの絶大な力を持つ三大魔女を原初の魔女と呼称し、生命の魔女様は不死身と言われています」

「では原初の三大魔女は、世界を灰燼かいじんすことが出来るほどの力をそれぞれ有しているということですか?」

「ええ、原初の魔女と呼ばれる三大魔女はそれぞれ''未来視の魔女''、''生命の魔女''、''魅惑みわくの魔女''という通り名を持っています。そしてこの三大魔女様は各々おのおのが特殊能力を保有していて、未来視の魔女様はその名の通り未来をることが出来、生命の魔女様は不死身であり、魅惑の魔女様は人を魅了みりょうすることが可能です」

「その原初の三大魔女の持つ特殊能力のことをもう少しくわしく教えてください」

「わ、わかりました。未来視の魔女様はある程度先の未来を知ることが出来て、未来視を応用することで戦闘の際に敵の手の内を全て把握した上で攻撃を仕掛けることが出来ます。つまりほとんどの攻撃を防がれてしまいます。彼女が原初の三大魔女の攻撃の要と言われているのは、それが理由です。

 生命の魔女様は先に述べたように不死身であり、何度殺されても復活します。一時は影武者が複数いるなどと言われていましたが、生命の魔女様の容姿は何度殺されても変わらないので、今では不死身なのだと信じられるようになりました。彼女は原初の三大魔女の中では万能型と言われ、その不死身の肉体を使っての攻撃も防御も出来ます。

 魅惑の魔女様は人を魅了して命令通りに動かす手駒を作れるだけでなく、虫や動物をも操れると聞いたことがあります。他にも毒物や劇物を生成するなどの能力もあり、彼女は原初の三大魔女の中で後方支援役を任されています。

 この三人が圧倒的な力を持っているので、彼女達のことはキリシタン宗も恐れています。しかも他の魔女を複数人集めてキリシタン宗の敵対勢力を作り出し、積極的に魔女の保護をしているようです」

「その三人を仲間に出来ればキリシタン宗を簡単に倒せそうですね」

「原初の三大魔女様を仲間にするのは無理難題ですよ。私も死者蘇生の方法が知りたくて生命の魔女様を何ヶ月も探し回りましたが、接触することは不可能でしたので」

 仁和はその後も原初の魔女について慧から聞き出した。慧が知り得る情報を全て引き出すと仁和はお礼を言い、慧は寺へと帰っていった。

「さて、私と政宗殿はこれからここで緊急の話し合いをしましょう」

「俺もそのつもりだったよ。で、実際に不死身なんてことはあり得るのか?」

「やはり最初に政宗殿が食い付くのはそれだろうと思っていましたよ。結論から言いますが、二十一世紀の技術力でも不可能と言うしかありません」

「なら生命の魔女にはかなりの数の影武者がいるってことか?」

「いえ、影武者の可能性は低いと思います。それに不死身のカラクリも何となくわかります」

「どんなカラクリなんだ?」

「景頼殿が未来人だというのはご存知ですよね?」

「当たり前だ。確か......脳を移植することによって三笠謙吉の記憶を持った屋代景頼という人間を造ったんだよな?」

「ええ、よく覚えていますね。教育係だった景頼殿が政宗殿を暗殺することを江渡弥平は計画していましたから」

「それと不死身とは何の関係があるんだ?」

「年老いてから脳を若者の体に移植させれば死にませんよね?」

「そういうことかっ!」

 仁和の言っていることは、古い体を若者の新しい体と取り替えれば長く生きられる、ということだろう。現に景頼という成功例もある。二十一世紀の技術力ならば記憶を他人の体に移すことくらいは可能だってわけだ。

「だけど──」

「だけど脳だって歳を取る、と言いたいのでしょうか?」

「ああ、まったくもってその通りだ。老人の脳は若者の脳と比べるとしわくちゃになっているだろ? つまり脳を記憶ごと他人の体に移植出来たとしても、それが永遠には続けられない」

「よくわかりましたね。記憶だけを脳から取り出して他人の体に移植する、なんてのは二十一世紀の技術力をもってしても不可能に近いですよ。ましてやここは戦国時代。まともな医療器具もそろっていないことでしょう」

「じゃあやっぱり死者蘇生ってのは嘘なんじゃないか?」

「いいえ、仮にも原初の魔女と呼ばれている人に限ってそんなことはないと断言出来ます。きっと何かありますね」

「何かとは何だ? その何かが気になるからお前とここで話しているんだが?」

「私にもわからないことはありますよ、政宗殿。責任を取って腹でも切って差し上げましょうか?」

「女の自害は喉だぞ。やるならしっかりな」

「......軽い冗談を本気にしないでくださいね」

 仁和は少し怒ったような顔になりつつも、まだ話し合いは続ける気らしい。やれやれ、ちょっとは付き合ってやるか。

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