伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その弐伍
もし陰陽師の奴らの呪縛の正体がサクシニルコリンによるものならば、そのまま俺の実力を
ただ御影は強すぎる。彼は感情をあまり表に出さない性格だが、殺気だけで俺が失禁しそうになるほどのものだった。最強、と呼ばれてもおかしくはない。奴を何とかしないと、俺に勝機はないのかもしれん。
「ねえ」愛華は柳生師範の竹刀を手に取った。「やっぱり私って弱いよね? 二人の足手まといになってるし」
「へ? あ、いや、元はと言えば俺が巻き込んじゃったことだから」
「良いよ、実際に私は弱いし」
彼女は悲しそうな瞳で竹刀を見つめ、涙を浮かべていた。
「べ、別に愛華は弱いわけじゃねーよ! こんな状況でも文句一つ言わないし、強い心を持ってるよ」
「心が強くても、父さんみたいに剣術や体術で強くならないと意味がない......」
愛華の父親である柳生師範が強いが故に、劣等感に
俺は咳払いをした。「心が強いってのが一番重要なことだぜ? どんなに強い奴でも勇気がなくては強い敵とは戦えないし、戦えないなら倒せない。勇気あってこその強さだよ」
「でも、私は強くなって父さんみたいになりたい」
「アルフレッド・ノーベルは戦争のためにダイナマイトを発明したわけではないと聞く。それでも、ダイナマイトが戦争に使われたのは周知の事実だ。そのせいでノーベルは爆薬王みたいに呼ばれて人から嫌われ、名誉は回復せずに死んだ。死後にノーベルの遺産でノーベル賞が設立されたが、生きている時に名誉回復しなければ意味がない。
他にもアルキメデスっているだろ? そいつはてこの原理を発見したりしたんだが、てこの原理が投石機に使われたりした。
ジャンヌ・ダルクもだな。神の声が聞こえるとかで戦争に狩り出されたが戦果を上げて尽力したにも関わらず、
日本では伊達政宗だ。政宗は十年早く生まれていれば天下を統一出来たって言われているだろ? その十年の壁のせいで、力はあっても天下は取れなかった。
まあ言いたいことは、実力を持っている奴は何かしらの不幸も持っているんだ。愛華は嫌な死に方をしてまで強くなりたくはないだろ?」
「うん」
「心が強いのが一番なんだ。覚えておけ」
こんなもんでフォローになったかどうかはわからない。だけど、愛華は嬉しそうにしながら竹刀を振り回していた。おそらく、フォローにはなっていたのではないかな?
『おい政宗。女の前で格好付けた挙げ句、伊達政宗について少し自慢までしたよな?』
「チッ! 聞いていたか」
日本史の中から理不尽な生涯を送った人物を例として挙げなかったのは、歯止めが利かずにずっと日本史を話し続けてしまう可能性を考慮したからだ。苦手な外国史についての話しにしては、我ながらうまく言えたな。
そろそろ柳生師範が帰ってくる頃だと思うので肩の力を抜くと、扉が開いて息を切らせた柳生師範が帰還した。江渡弥平達に襲われて逃げてきた、というわけではなさそうだ。
「柳生師範、動悸ですか? 歳ですね」
「違う! 名坂少年のために買いに行っていたということは、君がよく知っているじゃないか」
「はい、知ってますよ」
「疲れたよ」
疲れたことを無駄にアピールする柳生師範をよそに、ビニール袋の中身をテーブルにぶちまけた。
「木炭、硫黄、硝石、鼠花火、煙幕花火、爆竹、催涙剤、すり鉢、すりこぎ、布、
「あ、それと途中にゲームセンターがあってね、クレーンゲームでぬいぐるみを取ってきたけどいるかい?」
「えっと、何円使いましたか?」
「1200円くらいかな」
「はあ、無駄遣いしたんですか。クレーンゲームで手に入る物は小売価格が800円以下でないといけないと法律で決まっています。800円以下の物を1200円で購入するとは、損をしましたね」
「......そうだね」
少し柳生師範の顔色が悪そうに見えたが、気のせいだろうか。ちなみにぬいぐるみは愛華が貰うこととなったそうだ。
俺は柳生師範が買ってきてくれた木炭をすり鉢とすりこぎを使ってすり潰し、そこに硫黄と硝石を混ぜた。これで黒色火薬の完成である。
黒色火薬は俺が火縄銃を撃つ際に使う火薬で、無煙火薬と違って煙も匂いも出るが簡単に作りやすいのが利点だ。現に黒色火薬が手に入ったので、敵が接近してきた時に使おう。
包帯は怪我をした際の応急処置用ではなく、バンテージとして役立ってもらう。この包帯を手に巻いて拳を固めれば威力が桁違いに上がるから、接近戦闘を想定するならば必需品だ。
布は石を包んで振り回すとブラックジャックという凶器になる。ボールペンはノックすると催涙剤が飛び出すように細工をする。一応俺は無計画というわけではないのだ。
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