伊達政宗、弱みを握るのは伊達じゃない その肆

 江渡弥平を倒す云々は、後回しだ。今は輝宗の弱みを握るのみだ。

「仁和。江渡弥平のことは今の案件が片付いてから話そう」

「わかりました。なら、すぐにでも片付けましょう」

 仁和と密談をしていると、クロークが歩み寄ってきた。

「政宗! 良いことを思いついた」

「良いこと?」

「俺と政宗がわざと戦って、それに注意を惹いている間に本丸御殿を調べたらどうだ? 爆発させるより現実的だろ?」

「あ、なるほどっ!」

 爆発なら失敗する可能性もあるが、クロークとの戦いは一度してみたかった。悪くない。

「それでいこう。仁和もそれで良いか?」

「構いませんよ」

「よし。なら、仁和は他の者達と休憩してろ。俺はクロークと練習試合だ」

「ハッ! そのやる気、嫌いじゃないぜ。ヘルリャフカを倒したんだから、その力を俺に見せてみろ」

 二人で広い場所まで移動し、クロークを見つめる。

「刀を使っていいのか?」

「ヘルリャフカに致命傷を与えたのは、刀なんだろ? だったら、俺は素手だが政宗は刀使って良いぞ!」

「なら、勝っちゃうからな。落ち込むなよ」

「勝ってから俺に言ってみな」

 虎哉との戦いで対人戦闘の技術も身につけた。クロークには悪いが、ヘルリャフカを倒した俺に倒せない奴は少ない。

 最初から最大出力としよう。間を詰めて刀で一撃し、跳ね返ってから二撃目。跳ね返る時間を短縮したいし、防御壁を展開してトランポリンのようにしてみよう。

「作戦は決まったか?」

「決まったぜ。さて、足利尊氏の力を確かめさせてもらおう」

 一瞬で間を詰めたつもりだったが、クロークは姿を消した。身軽さには自信があったんだが、これは心がもたない。

「どこだ?」

「上だ!」

 ヘルリャフカを倒した時の俺の攻撃と似ている。刀で拳を受け止める!

「ハアアァァァー!」

「強い!」

 刀で拳を受け止めることは出来たが、力の差がありすぎる。押し切られる。

「防御壁展開!」

「うぉっ!?」

 防御壁を展開し、クロークとの距離を取る。このまま、隙を突こう。

「水の壁ってわけか。面白い技を思いつくな」

「うちの軍配士の考えでね。この防御壁を貫くにはかなりの力が──」

「水は基本的にもろい。水の逃げ場を無くして硬くしているようだが、要は加速度がなければ貫ける」

「ガハッ!」

 防御壁を貫いて顔面にパンチ!? 仁和特製の防御壁を、すぐに攻略しやがった!

「防御壁に頼るのも良いが、攻撃こそ最強の防御なんだぜ? そこんとこは覚えとけ」

 昔から攻撃は防御とは言うが、身に染みてわかる時が来るとは。

「次は俺の攻撃だ!」

「望むところだ。俺を楽しませろ!」

 防御壁は容易く破られたし、虎哉と同じく刀に防御壁を展開しよう。

 刀は片手で握ることにして、左手はクロークを床に伏すために使う。首根っこを掴むんだ。

「俺を床に倒すことは不可能だぜ?」

「なら、刀で連撃だ」

 鋭利な刃でクロークを切り裂く。

「ほお、防御壁の応用か」

「これならクロークに歯が立つだろ?」

「勇者がエクスカリバーを手にしても、エクスカリバーを扱う勇者に力が備わっていなければ意味が無い。お前には、エクスカリバーを扱う技能が備わっていないんだ」

 クロークは俺の腕を掴んで、俺を床にたたきつけた。

 俺の考えはまずかった。これは対人戦闘ではない。対魔人戦闘だ。


 二時間も経つと、体力は回復してきた。

 俺は今、米沢城の一室で横になっている。かたわらには心配そうにしているクローク。

「体は無事か、政宗!」

「すまん、クローク。つい調子に乗った。俺がヘルリャフカを倒したのはまぐれなんだ」

「そんなことはねーよ。魔人とあそこまで戦える人間は、探そうとしてもなかなか見つからないぞ」

「そんなものなのか?」

「そんなもんだ」

「本番では、戦いの最中に衝撃波を加えたい」

「衝撃波か。俺は衝撃波を出すのが得意だ」

「なら、衝撃波はクロークに任せよう。俺は音を出す」

「音? どうやって?」

「バトルの効果音みたいな音を発する機械を使う。仁和なら、そういう機械を作れるはずだ」

「名軍配士がいると良いな」

「頼れる仲間だ」

 この練習試合を通し、輝宗を本丸御殿から連れ出す方法が固まってきた。明日か明後日あさってには、作戦実行となるだろう。輝宗の弱みを握れれば、うまく伊達家を動かせる。

 明後日と言えば、明後日を明後日みょうごにちって読み方する奴、うざいよなぁ。いや、ただ......前世で生徒の中に、明後日みょうごにちって読んでた奴はいたが、歴史が好きだったからうざくは思わなかった。う~ん。

 クロークは笑う。「政宗!」

「なんだ?」

「政宗は強いし、頑張って全国を手中に収めろ。伊達幕府を築き上げろ」

「足利尊氏にそう言われると、なんか出来そうだ。クロークの期待に応えられるように、伊達幕府を築く」

「楽しみにしている。魔人は死ぬまでが長いから、気長に待つよ」

 伊達幕府。そんなものを築けるのか。俺は神の使者故に歴史を変えられない。せめて、江渡弥平が変えようとしている歴史を、正常な歴史に戻したい。

 第三次世界大戦は、起こしてはならない。戦争は人類史のはじである。

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