伊達政宗、尻拭いは伊達じゃない その参

 成実から戦での装備などを教わった。こんな体験は、歴史の教師を続けていても出来なかっただろう。アーティネスには感謝しかないな。

 俺は成実に礼を言って、また医学書を読み始めた。


 急に目の前が白くなり、聞き覚えのある声が俺に話しかけてきた。

「伊達政宗。いえ、名坂横久!」

「あ、アーティネス!」

 そこにいたのは、俺に転生の権利を与えてくれた犠牲神・アーティネスだった。

「名坂横久。あなたは重罪を犯しました」

「重罪?」

「歴史の知識を利用し、伊達政宗の歴史を変えようとしています」

「いや、それなら日本政府だって......」

「あの組織にはいずれ天誅てんちゅうを下す予定ですが、あなたは伊達政宗の歴史を変えつつあります。よって、あなたを天地ゆき執行人しっこうにん閻魔えんま大王に訴えて神界裁判にかけます!」

「はぁ? 何言ってんだよ! そもそも、転生するときにはそんなことは言われなかった」

「ここまで変えるとは思いませんでした......。これは犠牲神が唯一執行することの出来る『転生』を悪用された典型的なパターンです。名坂横久! あなたの身柄は一度、元の場に戻します。二日後、再度ここに強制的に呼び出します」

「ふざけんなよ! 何で俺がこんな目に遭うんだ!」

「伊達政宗による天下統一が成される可能性があると、私が判断したからです」

「アーティネスが判断? アーティネスに何の権利が──」

「私は犠牲神ですが、神々の頂点である太陽神・天照大御神アマテラスオオミカミの娘で次期太陽神の器・アーティネスです。転生については、私が一任された件です」

「天照大御神の娘だぁ? アマテラスの娘にはアーティネスなんて名前はないぞ!」

「あれは後に人間が創作した物語。私が次期太陽神の器なのです」

「嘘だろ......」

「では、また二日後に」


 目が覚めた。あれは夢だったのか? いや、あれは夢なんかじゃない。正真正銘の、死の宣告だ。猶予ゆうよは二日後。俺は死ぬかも知れない。それだけは勘弁かんべんしてほしい。

 アーティネスの口調からすると、伊達政宗が天下統一をしてはいけないらしい。これなら、徳川家康に生まれれば良かった! 失敗したな。前世で死んだ時点で、俺の行く末は決まっていたのかもしれない。俺の魂が向かう先は、あの世なのか。

「あの」成実は持っていた足軽の鎧の絵などを床に置いた。「若様、大丈夫ですか?」

「......俺が医学書を開いて何時間経った?」

「およそ、一秒か二秒です」

「わかった」

 俺は急いで、今抱えている案件を解決に導かねばならない。俺が伊達政宗としての生涯を終える前にやり残したことを片付ける。そのやり残したことが、輝宗から頼まれたものだ。

 犯人の可能性があるものはたくさんいる。医学書を読んでいて、死因については二通りか三通り程度まで絞り込むことも出来た。あとは、決定的証拠だ。今の時代なら、犯人だとわかっても証拠がないから逮捕出来ないなんてことない。容疑者を一斉に拷問に処すわけだ。そしたら、犯人は正直に犯行を話すしかない。容疑者の中に犯人がいたら、拷問に限るが俺はそんなことはしたくない。探すのは証拠だ。それを言いたいのだ。

 証拠と言ってもパターンはいくらでもある。例えば、指紋とかかな。指紋採取なら、戦国時代でも十分可能だ。けど、犯人しかつけられない場所に指紋があるなら別だが現場は戦場で遺体は荒らされている。そんな状況下で採取された指紋なんて、証拠能力があるわけない。指紋採取は、今回の場合なら適さない。

 次に簡単にゲット出来る証拠といえばなんだろうか。探偵でもない俺にはわからない。ならば、推理するまでもなくなる。考えられる全ての状況を頭の中で再現し、現状と一番当てはまるものを見つけ出す。俺が考えられる状況は十通りくらいだから、まったく苦でもない作業だ。そんなものは一時間あれば完了する。

 一時間後、宣言通り作業を完璧に完了させて死因は理解した。次に犯人を推理すれば良い。死因や遺体の状態から、すでに犯人の階級はバッチリとわかった。そこから犯人を突き止めるにはかなり効率が悪い。なぜなら、犯人の階級は戦では重要な奴らではあるが階級が最下位である足軽。つまり、犯人は足軽の中の一人にまでは絞り込めた。

 これからやるべきことは、足軽の中から犯人を見つけ出すために会議を開くことだ。会議の参加者は当然であるが俺と小十郎、景頼、愛姫の四人だ。早速、三人を部屋に招き入れた。

「犯人は足軽だとわかった。遺体の状態から見ても、事故死は考えられん」

「ってことは他殺?」

「他殺だ」

「他殺か」

 なぜ犯人の階級が足軽だとわかったのかは後でくわしく話すとして、三人には今回、戦の時に不審死を遂げた家臣の近くにいた足軽を調べさせた。

「政宗様」

「お、わかったのか、愛姫?」

「はい。これではないですか?」

「おっ! これだよ! さすがは愛姫だ」

「いえ、それほどでもないです......」

 愛姫から渡された資料を丁寧に読んでいった。俺の初陣の、部隊の編成を表している資料だ。この資料によると、犯人として怪しい足軽は十数人いる。一人一人、これからじっくりと調べていこう。

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