伊達政宗、尻拭いは伊達じゃない その弐
医者からの説明を受けたあとで、一通り遺体の外傷を確認して部屋に戻った。
「あ、若様」
小十郎が俺の元に駆け寄ってきた。部屋にはまだオセロ大会参加者が全員そろっていた。
「小十郎。ちょっとこい!」俺は小十郎を部屋の外まで連れ出した。「家督相続の最後の仕上げだ。輝宗からの信頼度を急激に上昇させるために、今回依頼された死因解明と犯人逮捕を一気に解決しよう!」
「?」
小十郎には、輝宗と医者からの話しを細かく伝えた。彼は肩を落として、右手をこめかみに当てた。
「すまん、名坂。なんでいつも、負担の掛かる案件を持ってくるんだよ。今夜も徹夜か......!」
「それは本当に悪いと思ってんだけど、家督を確実に継がなくてはいけないから輝宗からのポイントをぐんぐん上げなくてはいけないわけだ。つまりだな、これをクリアした先に家督相続が待っているんだ」
「手伝うけど、あまり奥さんに手間かけさせるなよ。初の奥さんだし、甘えたくなる気持ちもわかるがな、嫌われるぞ」
「え、マジ?」
「奥さんには優しくしとけ」
「お、おう! わかった!」
端から見たら、小十郎の家臣が俺みたいに見えるだろうな。俺が家臣をリードしなきゃいけないのに、家臣に俺がリードされちゃってるよ! 何なら、俺の首に小十郎がリード(犬の首輪みたいな......あれだよ!)を付けるまであるぞ。
小十郎は景頼と愛姫を部屋に呼び出した。もちろん、景頼の未来の書物の中から医学書を持ってこさせている。愛姫は未来を知らないから医学書に書かれている日本語の活字を読めなくて当然だ。だけど、彼女は俺が一時間教えた程度で日本語をマスターしてしまった。愛姫は日本人だが、時代がまったく違う。一時間で言語を覚えられるとか、神様の域を超えてるよ。俺の前世の時代を生きてたら、英検簡単に取れんじゃん! 少し自慢すると、俺は中学一年生で英検5級と漢検5級を取り、中学二年生で漢検3級を取った! 記憶は得意なのだ! 歴史検定については1級だが、歴史が好きだからこれは自慢にはならない。
自慢は良いとして、それからは医学書を毎晩毎晩読んでいった。医学書を読むのも、意外と大変だ。一般の本と違い、言い回しがややこしいからだ。一文を理解するのが一苦労であり、一冊を読み終えるのに二日、三日かかるのはザラにある。
(伊達政宗の)親の七光りで伊達家次期当主の俺だが、内面は最低のクズ野郎だ。飽き性、怠け癖、金の無駄遣いなど、挙げればきりがない。飽き性は俺自身が自覚しているが、金遣いが荒くはないと思う。親父なんか、一週間でゲームに百万円も課金したんだが......基準にした奴が間違いだったか。言いたいことはつまり、この俺が医学書を十冊も読破したことだ! そしてわかった。医学書の内容はほとんど覚えていない。けど、多分今回の案件に符合することは俺の読んだ医学書には記されていなかった。
翌々日、次の戦に備えて勉強を始めようと心に決めた。輝宗に解決を頼まれた案件は山積みにした。ここで、俺の飽き性が発動されたのである。
戦に備える勉強とは、つまりは戦で参戦する者を敵か味方か見極めるために装備などを頭にたたき込む、というものだ。歴史は好きだが、実戦があるとは思ってもみなかったから服装や装備などは全然覚えようとはしなかった。それを今から、真剣に学ぶ。それでは、誰から学ぶのか。伊達成実からである。成実は才能が突出している。教えるのもうまいから、今回は戦の装備について教えを乞うてみた。
「いいですか、若様。足軽などの戦での装備は武将の
「何でだ?」
「鉄砲が戦の主流となってきた今、鎧を撃ち抜いて鉄の破片と鉛弾が体内に入ると非常に苦しいです。ですので、最近の足軽は
「なるほど。つまり、足軽に限っては戦でも軽装なのだな?」
「その通りです」
「ほー! これは勉強になるな。だが、いざ戦場に立つと冷静に味方かどうか見分けにくい。家紋などを見るにしても、余裕はないのではないか?」
「その場合の対処は簡単です。足軽などいつでも補充可能な兵力です。敵味方問わずに首をはねることをおすすめします」
「......足軽は重要な戦力だぞ!?」
「そうなのですが、足軽などいくらでもいます。足軽など所詮は他大勢ですよ」
この時代は、階級が下の者をとことん見下す風習があるらしい。足軽が戦の勝ち負けを分けるほど重要な戦力ではあるが、成実は烏合の衆程度にしか見ていない。これではまずい。俺が家督を継いで伊達家の当主になったら、まずはその意識改革から始めなければならない。足軽を見下していると、いずれ足元をすくわれるのだ。
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