伊達政宗、尻拭いは伊達じゃない その肆
不審死を遂げた家臣を殺すことの出来る持ち場だった足軽の内、殺す動機があった足軽は全員というほどの嫌われっぷりだ。気になったから、今回死んだ家臣がどんなことをしていたのか確かめてみた。どうやら、足軽を酷く見下していた節がある。足軽もそれをよろしくは思わないわけで、大半の足軽からの支持率は低い。死んだ奴を調べるのは気が引けるが、その生き様が爆笑するほど面白い。馬鹿な野郎だった。なんと、戦で味方の足軽を通算で二百兵は誤って殺している。久々にここまで笑った。
ちょっと脱線したが、足軽には動機がたくさんある。動機で犯人に行き着くことは出来そうにない。
「名坂。何か解決を焦ってないか?」
「ま、まさかそんなことはない......」
「本当か?」
「本当だ」
小十郎はやけに勘が鋭いから困る。俺がアーティネスによって二日後に神界に強制的に呼び出されることは言えない。仲間に、そして妻には心配を掛けられない。
「犯人を探すにしても、これはまずい。神辺の言うとおり、俺は焦っている。進行が悪いのだ。足軽が犯人だとはわかっても、個人までの特定には至らない。それはやはり、証拠も何もないからだ。あと一日もしないうちに、この件に片を付ける。戦の状況と資料を当てはめて、確実に怪しい者を見つけ出せ! いいか!?」
「は、この屋代景頼、尽力します!」
景頼は忠誠心が高い。中身が未来人にしては珍しいタイプだ。いや、元はバリバリ武士系の脳に未来人の意識が植え付けられたわけだから体が自然と忠実に行動していくのか?
「景頼。いい心構えだ」
「しかし、若様。なぜ若様が、犯人が足軽だと突き止められたかは全然わかりません。なぜなのでしょうか?」
「そのことか。それについては、足軽を確保してからだ。話すと長くなるし、そのことを話す時間が何よりも惜しいのだ」
「わかりました。ご無礼、お許しください」
「あのさ、未来人なのに武士の口調ってしっくりこないんだけど......」
「私はこれが標準語になってしまったので、失礼ながらこのような口調で話させていただいております」
「それが標準語になってしまったのか。大変だな。俺はまだ転生して十数年だ。お前や小十郎はより大変な思いをしたのだろう。体調には気をつけろ」
「もったいなきお言葉、誠に感謝します!」
「お、おう」
景頼のペースに乗っかろうと頑張ってはみたが、無理そうだ。まだ俺には、転生したという真の自覚はないのだ。転生したという自覚をするためにも、アーティネスによる裁判を受けてみる価値はある。死ぬのだとしても、その時はその時だ。腹をくくるしかない。その後、小十郎が引率していけばいいが、彼は歴史の知識が欠如している。今までみたいに、怪事件をすぐには解決出来なくなる。二日後までの間、紙に俺の歴史の知識の全てを書き出そう。後は小十郎に任せてみる。その時間をつくる必要があり、それをするには速やかに犯人を捕まえねばならない。
一番簡単な証拠を入手したい。そのためにはどのようにすればいいか。もう答えは決まっている。
三人にはそれぞれの役割を与え、その通りに動くように命じた。最初はチンプンカンプンだったものの、仕方がないからことのあらましを細かく説明した。俺の話しを聞き終えると、手を合わせて納得していた。そこまで納得することの程でもない。足軽の特徴のお陰でわかったというだけだからだ。それに、自慢する相手もいない。家臣に自慢しても無意味だ。誰が虚しくてそこまでするものか。
俺は作戦を決行し、輝宗のいる本丸御殿に向かった。
「父上!」
「な、どうしたのだ政宗?」
「お伝えしたいことかございます」
「それは何だ?」
「反乱を企てる足軽が何名かいる模様です!」
「何と! 反乱じゃとな!?」
「はい。私が初陣を飾った戦での、三日目の朝に奇襲を仕掛けようと足軽の一人がこっそりと敵方の陣に入っていったようです!」
「うむ。では早速、足軽を尋問せよ!」
輝宗の
「お前が反逆者の一人か?」
「違います。あの時はまったく別の場所で別のことをしていたんです!」
「それを証明出来る人物は?」
「いませんよ、そりゃ。あそこは戦場だ! 周りを見渡す馬鹿はいないぞ!」
「貴様には謀反の疑いがある」
「まさか、嘘でしょう?」
「とぼけるな! まったく、ふざけやがって」
「別にふざけてはいないぞ」
「口答えしてもいいのかな?」
「......」
「それでいい。お前はお屋形様を殺そうとは思っているか?」
「そんなこと、一ミリもありません」
「正直に言え! 指の一本や二本など、簡単に切断出来るのだ」
「本当なんです!私は嘘などつきません」
「なら、お前が潔白だと証明出来る奴は存在するのか? するのなら、いってみろ」
「えっと......」顔をしたに向けた。「存在はしますが、今は生きてません」
「は?」
「不審死を遂げた家臣を殺したのは私です! 三日目の朝なら、奴を殺すことに専念していたんです!」
一番簡単な証拠は、やはり自白というものだな。
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