伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その肆玖

 アマテラスにボコられたホースティーが、少しかわいそうに思えた。

「さて」アマテラスはほこりを払った。「ホースティーの馬鹿が悪かったな。体力も回復したし、我が会議に出席することにしよう」

 俺は扉を開け、廊下へ誘導した。「部屋を変えよう。もっと会議に適した部屋を用意してあるんだ」

「わかった」

「成実、景頼、小十郎! お前らも着いてこい!」

「「はっ!」」

 五人で部屋を出ると、俺は先頭に立って客室に導いた。こういう場合を想定して俺がこしらえた、洋風の客室だ。この時代なら最先端であり、ホームズもこの客室は気に入っている。

 ホームズ以外にこの客室を使うことはまだないと思っていたが、早々に使用することになるとは。まあ、洋風の料理を作れる料理人もいるし、アマテラス達をもてなすには持ってこいだがな。

「アマテラス殿には上座などという決まりはないよな?」

「ふむ」アマテラスは顎に手を当てた。「上座は目上の奴が座る席、だったな。どの身分がどの席に座るかを決めるようなものは、神界にはない」

「それは良い。今日の会議は無礼ぶれいこうで構わないだろうね?」

「無礼講、つまり身分など関係ない宴会えんかいということだな?」

「そうだ」

「会議ではなく、宴会をするのか?」

「なあに、この国じゃ宴会をしながら話し合うものなんだ。会議と言っても、おまけみたいなもんさ。宴会が本当の目的だ」

「それなら構わない」

 宴会と言うには人数が少ないが、会話の内容は他人に聞かれてはまずい。人数は少ないにこしたことはないぜ。

 俺は食事を用意するように命じて、洋風客室にアマテラスを招き入れた。

「内観も素晴らしい。食事を楽しむのにはちょうど良い」

 アマテラスは客室に入るやいなやそう言って、拍手はくしゅをした。

 俺は腰に手を置いた。「だろう? 防音もしっかりしているから、盗み聞きされる心配もない」

 さりげなく防音設備について教えてやったが、アマテラスは触れることなく椅子に座った。ため息をもらしながら俺も腰を休めると、成実達三人もテーブルを囲むように座っていった。

「酒をたしなむ程度は飲みたいのだが」

 後ろに振り向いて、俺は女中を呼んだ。「度数の高い酒を頼む」

 酒は大至急運ばれてきた。わざわざ酒を注いで渡してやると、アマテラスはゴクゴク飲んでいく。この勢いでは、貯蔵庫に嗜好しこう品として数本置いておいた酒がなくなってしまう。他の嗜好品を用意しなくては。

 息を吸い込むと、声を荒げた。「食事はまだか!?」

 俺が怒鳴ると効果覿面てきめんなのかは知らんが、すぐにテーブルに食事が並んだ。

 さかずきを高くかかげ、ニヤリと笑う。「伊達天照アマテラス同盟を祝し、乾杯かんぱい!」

 俺の乾杯に続き、アマテラス達も乾杯を行った。そして酒を、口へ流し込んだ。

「えー、さて」四人の様子を観察する。「俺とアマテラスの間でどのような話し合いが行われ、同盟を結ぶに至ったのか。まずはこの説明からしていこうと思うが良いな?」

 アマテラスも含めて全員がうなずいた。


 俺がモーティマーを人質に取った時、アマテラスは降参してから半径五メートルに結界を展開した。その結界の中で、俺はアマテラスと話し合ったんだ。

なんじよ」アマテラスはどこからともなく、分厚い紙の束を取り出した。「これを読んでくれ」

「何だ、この分厚いのは?」

「読めばわかる」

 厚さが10センチにもなる紙の束を受け取ると、声に出して最初から読み上げてみた。

「『俺はとある高等学校で歴史を生徒に教えている教師だ。好きな時代は戦国時代、好きな戦国武将は伊達政宗。隻眼ってのが格好いいんだよ。』

 ん? どこかで聞いたことがあるような......」

「声に出さずに読んでみろ」

 俺はその紙の束に目を通した。その紙の束には、主人公は歴史好きの教師だったこと、同じ職場の教師に殺されたこと、死後にアーティネスに転生させられたこと、伊達政宗に転生していたこと、輝宗を信頼を得るように努力していたことなどが書かれていた。

「おい、アマテラス」

「どうした?」

「この主人公、どう見たって俺だよな?」

「......」

「主人公の一人称で物語が語られてはいるが、ところどころに三人称神の視点が使われている。神の視点で語られている部分は、レイカーとかの神の思考もちゃんと記されている。この作者は人間や神の思考を読める奴だということだ。

 神は人間の思考は読めても、他の神の思考までは読めないらしい。だが、アマテラスは例外だ。アマテラスは太陽神だから、他の神の思考も読める。この小説(?)は明らかにアマテラスによって書かれている!」

「正解だ」

 なお、補足しておこう。読者諸君が今読んでいるこの小説は、我アマテラスが書いたものだ。主人公・政宗の視点で描かれているが、それは我がそうしたかったからだ。

 政宗が書いている小説なのに神の視点が存在していることを不思議に思っている者もいるかもしれないが、真実は我が書いていたからなのである。

「で、なぜアマテラスがこれを書いているんだ?」

「──気になるか?」

 我は、否、アマテラスはものすごい気迫きはくで俺を見た。そして小さく、知りたいのか、とつぶやいた。

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