伊達政宗、信長救出は伊達じゃない その拾壱
俺が米沢城に帰還してからすぐに、景頼が俺の元に駆けつけてきた。
「若様!」
景頼は、俺がダメージを負ったか心配なんだろう。だけど、一番の問題は──。
「ああ、俺は大丈夫なんだが」
俺は小十郎の方に視線を向けた。景頼もそれに反応して、小十郎を見た。
「若様......まさかっ!」
「神辺は死んだ」
景頼はひどく驚いたが、俺はそれどころじゃないんだ。悲しくならないんだ。どれだけ小十郎と遊んでいた楽しい日々を思い出しても、涙は流れてこない。胸が苦しくなることもない。牛丸が死んだ時だってそうだった。こんな俺には、生きる資格がない。
前世の俺は、こんなに酷い奴ではなかった。こんなに無感情なのは、転生が原因だ。
今でも、小十郎が死んだことが受け入れられない。それだから悲しくならないのかもしれない。だけど、それでも普通は涙くらい出る。なのに......悲しいどころか自分の無力さに笑いすら起こる。
本当に笑っちまうよ。あそこで撤退さえしなければ、小十郎は死ななかったんだ。俺はあの頃と何も変わっちゃいなかったんだ。
──前世
俺は
「よう、武中! 今日さ、
「ハハハ、名坂は酒が好きだね」
「当たり前だろ。教師が大変な仕事だって知らなきゃ、こんなことはしてなかった。酒は現実逃避の
「確かに、そうだな」
俺はその日に、武中を呑みに行く連れとして誘った。元々、気が合う同僚だと思っていたから気軽に誘った記憶がある。武中は満面の笑みで、呑みに行くことを承諾した。
「そんじゃ、今日の分の仕事をさっさと終わらせちゃおうぜ」
「そうだな」
あの頃は本当に楽しかった。教師の仕事は辛かったけど、呑みに行ったり皆で馬鹿やったり......。でも、そういうことも武中は気を合わせていただけだったんだ。人のためにやってたとかって思ってたけど、自分よがりでしかなかった。いつも自分の利益ばかり優先して、周囲の奴の気持ちとか利益を考えてなかった。
俺は本当に......最低な野郎だよ。
「武中! 俺は仕事終わったぜ!」
「名坂は早いな。僕はもうちょっと掛かりそうだよ」
「そうか。待ってるよ」
武中の仕事を手伝おうともしなかった過去の俺を、俺は
武中は一時間掛けて、仕事を片付けた。
「よし、行くぞ」
「はい」
勤めていた高校からほど近い居酒屋に二人で入って、酒を注文した。その居酒屋でも、俺は上司の陰口しか言わなかった。その陰口を、武中は怒らずにちゃんと聞いた。この時から、俺はまったく成長していなかったんだな。怒りがこみ上げてきた。
「教頭がさ、ウザいよな。仕事を俺に押しつけてくんだよ」
「それは、名坂もかわいそうだな」
「だろ?」
お前だって、武中の仕事を手伝わなかっただろ。教頭と同じレベルの最低な奴だ。
思い知れ、俺。今の現実は、お前が招いたんだ。お前のせいで、小十郎は死んだんだ。お前が楽な道しか歩んでこなかったから、こうなったんだ。全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部、お前のせいなんだよ。
「若様......な、何が道中であったのですか!?」
「ヘルリャフカの苗床が、牛丸だったんだ。もう、意味がわからねぇ」
「牛丸殿がヘルリャフカの苗床となっていたのですか!」
「そうだ。俺は牛丸を倒す勇気がなかった。だから、撤退の命令を出した。それでヘルリャフカに背を見せた瞬間に、神辺は槍で貫かれたんだ」
「胸中、お察しします......」
胸中お察しします? わかるわけがねぇよ、俺の胸中がよぉ。
今までだらけてきた罰が来たんだ。自業自得なんだ。俺はもう、死ぬしか道はないんだ。散々楽な道を歩いてきた。俺は、ここで死んで末代まで汚名を残しちゃ駄目だ。
「なあ、景頼」
「何ですか?」
「俺さ、わからないんだ」
「何がわからないのですか?」
「それがわからない。牛丸が死んだ時も、神辺が死んだ時も涙は一滴も流れ落ちない。悲しいはずなのに、涙は流れない。戦で同朋の者が倒れていっても、見向きもしなかった。俺は......最低だ」
「若様、この戦国の世では仕方が無いことです」
「仕方が無いって何だ? 何が正しくて何が正しくないんだ? 何が間違っている? 俺は悲しくはならなかったんだ! 大切な仲間が死んでも!」
「わ、若様」
「一人に......してくれ」
死のう。一人になって、死ぬんだ。死ぬしかない。俺は決意した。
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