伊達政宗、脱出するのは伊達じゃない その壱

 信長救出作戦実行の翌日、俺は疲れを癒やすためにのんびりと天をあおいでいた。

 ヘルリャフカは倒せた。信長は助けられなかった。小十郎には不死の力を与えてしまった。ここまで失敗すると、さすがに心が折れる。

 小十郎が復活したのは良かったが、代償として不死の力を与える結果となった。本当にこれで正しいのだろうか。

 周囲が騒々しい。それはおそらく、織田信長が死んだからだ。輝宗は信長とふみを交わすほど日本の中央の覇権争いに目を向けていた。だが、京を治める信長は死んだ。これでは輝宗も焦るわけだ。俺は知ったこっちゃない。もし史実通りに進むなら、そろそろ光秀は安土城を奪い取る。俺は歴史にくわしいから、他人には不明瞭な未来でも俺には明瞭なのだ。

 俺はこれから何をする? あと数年で伊達家の家督相続をするが、その間に手柄を立てまくる。そのためには、仁和の作戦は必要不可欠。相馬氏を圧倒する作戦をあとで考えてもらおう。

「名坂!」

「神辺、お前......まだ寝てた方が良いんじゃないか?」

「大丈夫。もう元気になってきた」

「本当か? 無理はするなよ」

「ああ、わかってる」

「......俺はこれから、仁和に会いに行く」

「作戦のことか?」

「そうだ。相馬氏をぶっ倒す作戦」

「ヘルリャフカの次は相馬氏か。大変だな」

「ヘルリャフカに比べれば、相馬氏なんて雑魚だ。何とかなる」

「それもそうだ。ハハ」

 輝宗も最近は仁和を重宝している。仁和は軍配士としての力がある。

 未来人衆には活気が戻ってきた。未来の技術を、この戦国時代に伝えている。といっても、未来の技術によって生み出された物は量産を禁じている。もし未来の兵器などが量産されてしまえば歴史を変えてしまう。これだけは譲れない。

 未来の技術によって未来の物を生み出すことは、仁和が担っている役割でもある。仁和は未来で設計図を書く力を身につけているらしく、設計図はお手の物。見習いたいものだ。

「仁和!」

「政宗殿、どうしました?」

「相馬氏を圧倒する作戦を立てて欲しい。相馬氏はぶち倒さなくて良い」

 相馬氏と伊達氏は和睦する。相馬氏を今の段階では滅ぼせない。

「作戦ですか?」

「そうだ。相馬氏の主力の者を何人か潰したい」

「そうですか。なら、急いで作戦を立てましょう。最終的に主力を潰すのは未来人衆で良いですか?」

「別に手柄は欲しくない。俺が欲しいのは相馬氏の主力がいなくなったという事実だ」

「それでは、作戦を立てます。明日辺りに実行してもよろしいですか?」

「明日か。構わないぞ」

 仁和はニヤリと笑った。前々から考えていた作戦でもあるのだろうか?

 それはどうでも良いか。相馬氏の主力を潰せれば、相馬氏は脅威ではなくなる。仁和に全てを任せよう。

「頼んだぞ、仁和」

「はい。了解しました」

 俺はこれで安心し、久々に小十郎と二人(二人と言っても勢子と鷹匠は着いて来やがる)で鷹狩りに出向いた。

「神辺。獲物はいるか?」

「あそこにいるんじゃないか?」

「あれか......。勢子、鷹匠! 行け!」

 獲物はすぐに捕まり、小十郎と二人で笑った。すると、背後から攻撃を受けた。


 見知らぬ場所、見知らぬ天井。目の前には、見知らぬ輩。

「起きたか、伊達政宗」

「お前らは、誰だ!?」

「俺らか? お前に言う必要はあるのかな?」

「ないな」

「なら、お前は黙っていろ」

「ここはどこだ?」

「教えねぇよ。お前は今日から人質だ。せいぜい楽しんでいろよ。ハハハハハハハハハハ」

 チッ! 何だこいつら?

 腕も脚も紐で結ばれている。身動きが取れない。戦国時代には誘拐は普通なのか!? これは非常にまずい状況だ。うまく脱出する方法は......ない。

 窓は見受けられないから、この場所は地下の可能性が高いか。頭を打たれてからの記憶がない。少数の鷹狩りはうかつだった。

 今はまず何時だ? 誘拐されてから何時間経った? まずい、俺はこんなところでは死ねない。


 一方その頃、小十郎は馬を駆けて勢子や鷹匠とともに米沢城に戻ってきていた。

 小十郎は米沢城に到着するなり仁和の元へ行き、協力を求めた。

「若様が何者かに誘拐されました!」

「政宗殿が誘拐? なぜ小十郎殿は政宗殿を助けられなかったのですか?」

「私も同じく頭を打たれてしまい......。それより、早く若様を」

「助け出すのですね?」

「そうです!」

「何時に政宗殿が誘拐されたかはわかりますか?」

「日時計が示すところ、確かさるの刻だったと思います」

 仁和は水時計に目を向けた。「今はとりの刻。一刻いっときは経過していますね。急いで政宗殿を助けに行きましょう」

 一刻は今で言う二時間である。

「ええ。早く若様を助けに行かないと、大変なことになってしまいます!」

 仁和は未来人衆を集め、小十郎は信頼出来る家臣団を招集した。皆の表情は真剣だった。

 指揮は小十郎がすることになった。

「皆よ! 若様を救い出すぞ!」

「「はっ!」」

 一斉に城を飛び出し、俺が姿をくらましたポイントまで駆けた。果たして、俺を救い出すことは出来るのだろうか。

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