伊達政宗、輝宗を殺すのは伊達じゃない その弐肆

「俺はアーティネスを信じるぜ」

 レイカーは深くため息をついた。「なぜなんだ。名坂君ならわかってくれると思ったんだが......」

 ふざけるな。アーティネスは優しくて良い奴だ。洗脳をしている? そんなわけない。毎回俺を助けてくれるんだ。

「アーティネスは洗脳なんてしない」

「では聞くが、牛丸......柳沢氏丸を間接的に殺したのはアーティネス本人だぞ」

「それは確かにそうだな......」

「そうだ。奴を信じてはいけない。君を精神的に追い込んで、アーティネスが君の心の支えとなることで、奴は君を思い通りに動かしているんだ」

「いや、ただ、アーティネスがそんなことがあり得るのか!?」

「太陽神はそういう外道げどうが後継者となる傾向けいこうがあるんだ」

 考えてみれば、アーティネスの行動はに落ちない点が多すぎた。牛丸を殺したのは、確かにアーティネス。アーティネスが俺の心の支えとなっていたのは本当だし、俺はアーティネスの言うとおりに動いていた。アーティネスに操れていた、と言われれば納得出来る。

 太陽神は高い洗脳技術を有している者がなれる、それは本当なのだろうか。ただ、レイカーが嘘を言うような奴には思えない。

「わかった。今はレイカーを信じてみる」

「おぉ!」レイカーの表情は一気に晴れ、声が優しく包まれたように明るい印象を受ける。「本当に信じてくれるのかい!?」

「アーティネスが怪しいことは、レイカーのお陰で自覚出来た。だから、信じてみることにする!」

「それは嬉しい」

「俺は何をすれば良い?」

「アーティネスを太陽神の器から引きずり下ろす。そのためには輝宗の死を偽装するのが第一歩になる」

「何でそれがアーティネスを太陽神の器から引きずり下ろすことに繫がるんだ?」

「輝宗は前世は二十一世紀の日本人だったんだ。アーティネスは輝宗に前世から不幸を味合わせていて、名坂君にやったみたいに輝宗の心の支えになるようにしたんだ。ただ、君が輝宗を殺したら、アーティネスは輝宗を用済みと見るだろう。そうしたら、必ず輝宗を地獄へと落とすはずだよ」

「それはまずい! 早く何とかしないといけないじゃないか!」

「そうなんだよ。だから、ホームズを君に送り届けたんだ。アーティネスは慎重しんちょうな性格をしているから、だますにはかなり綿密めんみつな計画が必要となってくる」

 レイカーは手を拡げて、何冊かの書類を出現させた。その書類に目を通して、一部分を指差して俺に見せた。

「この人物も鍵を握っているように思うよ」

 俺はレイカーの指差した部分に書かれている文字を読み上げた。「井原......甲太郎?」


 名坂君を見送った後、アーティネスのいる場所まで向かった。

「レイカー、どうしたのですか?」

「ああ、アーティネスに用事があるから来たんだ」

 アーティネスは机の上を整理した。「用事があるなら、済ませてください」

「輝宗を殺すように名坂君を動かしているんじゃないかい?」

「......それがどうかしましたか?」

「僕は人間保守派だ。君達の行為を見逃すなんて無理だ。いずれ革命を引き起こす。君達は虚勢を張るのはもう辞めんだ」

見栄みえを張る人間保守派の神には言われたくないですね。太陽神とは、人間を洗脳して操ってこそですよ」

「人間を操り人形にしたのは、始祖しその考えにそむいていることになる」

「始祖なんて何百世紀の太陽神に過ぎません。その間に考えが変化するのは当然のことです」

「始祖の時代は人間を尊重する神界だった。古き良き神界を、僕達保守派は守る!」

「構わないですよ。革命を引き起こすなんて、夢のまた夢。頑張ってください」

 僕はニヤリと笑った。僕には名坂君という仲間がいる。彼なら、アーティネスを倒しうる。「そうやって高みの見物をしているといいさ」

 アーティネスは好意的な笑顔を作ったが、声は怒りに満ちていることがわかる。


 伊達政宗の体に戻った俺は、井原甲太郎という家臣を呼び出した。レイカーいわく、井原甲太郎という家臣も鍵を握っているようだ。まずは会ってみるのが一番だな。

「お呼びでしょうか、お屋形様」

「うむ、よく来たな」

 名前を見る限り、こいつも二十一世紀の日本人なのではないだろうか。

「本日はどのようなご用件ですか?」

「我の父上を助けたいのだ。手伝ってくれるか、二十一世紀の日本人よ」

「なっ!」井原は驚愕きょうがくして、腰を抜かして床に倒れ込んだ。「命だけは見逃してください!」

「落ち着け! 落ち着くんだ! 別に未来人だからといって殺すつもりはない!」

 急に床に倒れるもんだから、俺の方も驚いてしまった。何とか井原に事情を説明するために努力をした。そうすると井原は状況が飲み込めたようで、全面的に協力してくれるようだ。

 井原甲太郎とシャーロック・ホームズ。この二人がそろって、やっと輝宗を助ける計画を組み立てて実行に移すことが出来る。まずはレイカーを信じて、アーティネスを騙してみる。様子をうかがおう。

「私の協力が役に立ってご隠居殿が助かるならば、協力はしみませんぞ!」

「ありがたい」

 俺は頭を下げて、井原と握手をした。

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