伊達政宗、隻眼になるのは伊達じゃない その参

 伊達政宗は1567(永禄10)年、出羽国米沢城にて伊達氏第16代当主・伊達だて輝宗てるむねの嫡男として、正室の義姫よしひめから生まれた。幼名は『梵天丸ぼんてんまる』だから、俺は伊達梵天丸と名乗った方が良いだろうか? なんか格好悪いな。

 話しはすごい変わるのだが、実はアーティネスに、伊達政宗を十年前に出生させることは出来るか尋ねてみたんだが、それは私の力では出来ないとか言って断られた。

 もし、伊達政宗が十年前に生を受けて誕生したのなら、織田信長や豊臣秀吉、徳川家康などに肩を並べて天下統一も夢ではなかった。というのも、1575年に起こる長篠の戦いにも20歳で出陣が可能だったり本能寺の変なども関係してくる。たった十年が、伊達政宗の天下統一の道を塞いだのだ。時というものは切ない物で、壁にすらなる。俺はその十年の壁をぶち壊すことが出来るだろうか。

 いや、それはどうでもいい。本当に俺が危惧しているのは、前世の記憶が戻ったのが俺が9歳になった時だったのだ。あと一年も経てば1577年。つまり、元服だ。名も伊達藤次郎政宗と改名するわけだが、そもそも、全然天然痘になんないから隻眼にならん。どうしたものか......。伊達政宗は独眼竜でこそだ。隻眼じゃない伊達政宗は論外としか言いようがないじゃないか!

 伊達政宗は天然痘になって右目が失明し、白くなった眼球が飛び出してくるはずだ。それを小十郎が切り落としたのが逸話である。その話しが違うとすれば、自ら右目を刀で斬る必要があるかもしれない。

 だが、遺骨の調査の際に、伊達政宗は隻眼であった可能性が高いことがわかっている。意味がわからくなってきたな。

 俺は隻眼を求めて刀を探して歩いた。が、すぐに刀は見つかった。伊達家は武士の家なわけだから当然なんだけどな。

「梵天丸。刀はまだいじるでないぞ。子供には少々危険なものなのだ。尖っているし、刃を触ったら指も切れる。梵天丸は将来有望で俺の嫡男なんだから怪我をさせるわけにはいかない」

 刀を手に取ろうとしたら、横から手が伸びてきて止められた。声と手の主は父・輝宗だった。

「すみません、父上。私も元服したら刀で初陣を飾ると思うと、つい触りたくなってしまいまして......」

「ハッハッハッハッ! 梵天丸は面白いことを言うな」輝宗は笑い泣きをしていた。涙腺から光る滴が垂れてきたのだ。その涙を手で拭き取りながら、また口を開いた。「戦場で敵を倒すのに猛威を振るうのは弓矢や鉄砲だろ? 刀じゃうまく相手を殺ることは出来ないぞ?」

 そうか、思い出した! 戦国時代の戦場での負傷者の多くを弓矢や鉄砲が占めているのだ。刀で負傷する割合はかなり低い。つい忘れてしまっていた。九年間も歴史の書物を読んでいないから当然と言えば当然だが、不覚だった。

 ここはとぼけてみることにしよう。「父上、日本刀は戦場では役に立たないのですか?」

「そうなんだよ、梵天丸。日本刀はな、基本的に片手で扱いながら戦う。つまり、弓矢よりよっぽど扱いが難しくなるわけだ。槍も振り回すだけだし弓矢は矢を飛ばすだけだ。しかし、刀は接近戦でのみ力を発揮する。刀は武器の中でも扱いにくい」

 そう。刀は片手で戦うことが多い。馬に乗りながらの状態や、走りながらなどで戦う時は片手で刀を握りながらだ。槍は振り回すだけで戦える。刀は無用、弓矢鉄砲槍は有用である。鉄砲に関しては予算の問題もある。

「ご教授ありがとうございます、父上」

「うむ。元服までまだ数年ある。ゆっくりと思考しなさい。初陣を飾るのも9歳が考えることじゃない。教養を学べ。これが父からの教えだ」

 承知しました、と言うと輝宗は笑いながら向こうに消えていった。

 元服するまでに力をつけないといけないようだ。俺は近くに誰もいないことを確認して、刀を手に取って鞘から抜いた。まばゆく光る刀は、俺の顔を鮮明に映し出すほど反射するように磨かれている。

 磨かれた剣先を右目に向け、まぶたを閉じた。刀を顔から遠ざけ、額から右目を通るような刀傷をつくるようにイメージしながら、刺した。右目に刀を刺した。血が勢いよく吹き出た。

 痛すぎて、さすがの俺ですら叫んでしまった。想像していたよりはるかに痛い。前に前世で学校の階段から転げ落ちて全治二ヶ月の骨折になったことがあるが、それとは比べものにならない苦痛だった。すぐにまた輝宗が駆けつけてきた。

「梵天丸! 大丈夫か!」

 輝宗が呼びかけていることはわかったが、叫ぶことしか出来ない。輝宗が大急ぎで人数を集めると、俺の近くで多数の奴らが作業を始めた。どうやら、俺の看病etcのようだ。時が経つにつれて痛みも治まっていき、右目に包帯が巻かれていることに気づいた。

「梵天丸!」

「ち、父上......」

「医者からの宣告だ。梵天丸の右目は......視力を失ったんだ」

 こうして、伊達政宗は幼少期の頃に右目を失明した。以降は眼帯のない時代だから、白い包帯を巻くこととなった。独眼竜、隻眼の覇者の第一歩の証である。

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