第一章『初陣へ』
伊達政宗、元服するのは伊達じゃない その壱
一年後の天正5(1577)年11月9日。俺は元服の日を楽しみにしながら、城内を散歩がてら周囲を観察した。水堀が綺麗で見とれていると、水で濡れた人物が通ったのではないかと思われる道があった。注意深く眺めると、途中で途切れてしまっていた。
「いったいあの滴の落ちたような跡はなんなのだ?」
俺は爪を噛んで考えを巡らせた。しかし、考える暇はまったくなかった。俺・政宗の守役である
ちょうど俺が右目を斬るちょっと前に19歳で伊達家に小姓として入った。小十郎は信頼出来る者だし、歴史をなぞるためにも側近として活躍してもらう予定だ。
「若様。どうかしたのですか?」
「水堀から誰かが侵入したかもしれない跡があった」
「それは気のせいですよ。それよりも、お屋形様が呼んでおりました」
「父上がか?」
「さようでございます」
「よし。行ってみよう」
俺は小十郎と一緒に輝宗の元に向かった。何の用事なのか予想しながら歩いたが、結論が出る前に到着してしまった。
「梵天丸」
「何でしょう、父上」
「野望を聞かせてくれ。梵天丸の野望だ」
野望。それは天下統一しかない。だが、もしこの質問は輝宗が俺の資質を確かめるものだとしたら、もう少し慎重にいかなくてはならない。
輝宗が望むであろう答え。それはなんであろうか。奥州統一とでも言うか?
「それはもちろん、この天下を統一するのです!」
俺より先に小十郎が言いやがった。仕方ない。天下統一に合わせるしかないようだ。
「梵天丸はこの世を統一しようと考えております」
「それはどのように?」
「織田信長、豊臣秀吉、徳川家康を討ち滅ぼすのです。例えば、忍者を使って敵の城内を撹乱させて落城させるんです。足軽もありったけ用意し、
まあ、伊達政宗が創設した忍者組織『
「うむ」輝宗は下を向いて少し考えた。「成長したではないか、梵天丸。野望だけでなく、その野望を実現させるための過程も意識しているな。満点だ」
どうやら輝宗の望んでいた答えが言えたようだな。これも全ては小十郎のお陰と言って差し支えないだろう。
次の日、11月10日。もうすぐ俺が元服だというときである。父・輝宗が食膳を前に白飯を口にかっこんで味噌汁をすすった。すると、急に輝宗が苦しみだした。喉の部分を手で押さえている。家臣が集まってくる。ギャーギャー大騒ぎの状態になった。
俺も驚いて
状況からすると、食膳に毒を盛られた可能性が高い。すると、毒味役は何をしていたのか?
まったく、甚だ馬鹿な毒味役だな、と感じた。
え? なんで実の父親が毒でやられているのにそんなに冷静かって? 輝宗が実父だという実感はないし、あの腫れた感じからすると毒物とは『唐ハンミョウ』だろう。そして、毒を盛ったのは誰か。忍者だとすれば毒殺に唐ハンミョウは使わない。つまり、忍者ではないド素人の馬鹿野郎の仕業だ。唐ハンミョウは猛毒だが皮膚が腫れるから毒殺だとバレやすい。トリカブトなんかは簡単でお手頃だが、ポピュラー過ぎる。ある程度の知識はあったが唐ハンミョウを使ってしくじるほどの知識しかない人物が犯人だ。
昨日の水堀の近くにあった跡からすると、犯人は外部の人間の可能性が高い。追いかけるのは不可能だ。
だが待てよ、水堀は泳いで抜けられるほど甘くない(江戸城みたいな例外を除けば、だけど......)。だが、滴の落ちたような跡はあった。もしかすると、忍者の可能性もあるのか?
実は忍者の
何もないとおそらく泳げないであろう水堀。しかし、忍者なら水蜘蛛で泳げるし水の跡が残っていたのも納得はいく。でも、唐ハンミョウを忍者が暗殺に使ったとは思えない。腫れてすぐに毒殺とバレる危険性がある。
やばい! まずい! 犯人の解釈の仕方が多数ある。まったく推理にならない! 毒味役が犯人の可能性もあるし、ていうか毒味役が毒に気づかないのも怪しいな。食えよ! 飯を食え!
──ひとまず、輝宗の元に駆け寄った。輝宗はもうすでに顔が腫れだしているようだ。
「大丈夫ですか! 父上!」
「ぼ、梵天丸......」
「父上! 父上!」
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