伊達政宗、幽霊退治は伊達じゃない その捌
部屋の中では、成実と俺の二人となった。
「成実よ」
「若様、このたびの無礼をお許しください」
「大丈夫だ。全部、理解している。お前が無言だった理由もな」
「そうでしたか。では、兼三あたりがバラしましたか?」
「そこはノーコメントだ。......まさか、俺が与えた刀を失ってしまったから、こっそり鍛治屋に頼んで同じ刀を作らせていたとはな」
「刀は武士の命。失ったとなれば、若様もお怒りになるかと思いました故(ゆえ)に......報告しないでいました。その件に関しましては申し訳ございません」
成実は俺が与えた刀を紛失させてしまった。そのことが露見すれば、俺に叱られて城を追い出されると思ったのだろう。なにせ、俺はこの城の城主の息子だからな。俺はそんなことはしないが、成実は城を追い出されたくないがために、密かに鍛治屋に同じ刀を作らせようとした。
三の丸の幽霊の件は、成実に聞いたところ『自分ではない』と言っていた。おそらく、成実が夜中に三の丸を通って城下町に行く姿を目撃した誰かが幽霊の噂を流したんだな。
成実の病は、仮病だ。仮病までした理由は、刀があるか俺に尋ねられる機会を無きすためだ。仮病をしている間に、成実は偽の刀を完成させようと兼三と打ち合わせていたらしい。とんだ迷惑だ。俺は本気で心配したのに。
「成実。刀を紛失した程度じゃ、俺は怒らない。安心しろ。今回の件も許してやるから」
「ええ、感謝します」
「ただしこれからは、隠し事はなしだ。ものすごいことがない限り、俺は怒らないし。あっ! 前にあげた刀よりグレードアップした刀をくれてやる」
「ありがたく、受け取ります。重ねて、感謝を」
「ああ」
今回の謎は、俺の知識だけでは解決することが出来なかった。まあ、くわしいことは輝宗には伝えないから伊達家の家督相続には深く関わってはこないと思う。
成実も失わずにすんだし、家督相続後も苦労はしないはずだ。次の戦でも、成実には手足となってもらおう。
「では、成実。困ったことがあったらいつでも俺に頼ってくれ」
「はい。それならば遠慮なく、これからは若様を頼らせてもらいましょう」
「それでいいんだ」
成実の前で格好付けるだけ付けて、部屋を去った。廊下を歩いて、小十郎を見つけたから引き止めた。
「小十郎!」
「これは若様。どうされました?」
「成実にはかっちょいい刀をプレゼントしたい。鍛治屋に注文して作らせろ」
「承知しました」
小十郎と別れてからは誰とも会うことなく、自室に入って床に腰を下ろした。
考えろ、俺。これからはふざけることの出来ない怒涛(どとう)の日々が始まる。なぜならば、これ以後のイベントは対相馬氏戦に相馬氏と伊達氏の停戦協定、伊達家の家督相続。そして天下の分岐点、本能寺の変。俺は本能寺の変から織田信長を救うべきなのだろうか? 本能寺の変から救えば、天下を手中にするのは織田信長でまず間違いない。そうなれば、伊達政宗による天下統一が実現出来ない可能性が出てくる。油断は大敵だ。
本能寺の変から織田信長を救出するのかどうか、それは恒例の会議で決定しよう。それに、転生などの非現実ではお決まりのこともそろそろある。強敵の登場だ。
アーティネスも前に言っていた。神の使者に選ばれたのなら試練は必ず乗り越えなくてはいけない、と。アーティネスの言うところの『試練』が俺の『強敵』ならば、神の使者の力を酷使することは不可能か。厄介だな、まったく......。
織田信長に取り入った方がいいか、本能寺の変を知っていて救わないか。織田信長を助けたら、伊達家は一気に急成長。どちらを選ぶか悩ましい。
「若様」
扉の向こうから、俺を呼ぶ声が聞こえた。
「誰だ?」
「牛丸でございます」
「牛丸か。部屋に入れ」
「それでは失礼して......」
牛丸が部屋に入ってきた。彼は未来人なのだが、なぜ牛丸と名乗るのか。前々から気になっていたが、それを聞いてみよう。
「牛丸。本名は氏丸なのだろ?」
「はい」
「牛丸と名乗る理由はあるのか?」
「江渡弥平からの命令でした」
「ふむ、なるほど。江渡弥平が牛丸と名乗るように命じた理由とかはわかるのか?」
「わかりませんね。ですが、牛丸の方が戦国時代っぽいですから」
「ま、その通りだな」
「それより、私の用を済ませても良いでしょうか?」
「用? 何だ?」
「未来人衆に休暇(きゅうか)をいただけませんか?」
「何で?」
「天然痘の予防薬作りで、未来人衆は疲労が蓄積してしまっているのです。そもそも、我々は未来人なので戦国時代に住んでいるだけでも疲れてしまうのですよ」
俺なんか十数年も戦国時代で暮らしてるんだぞ。未来人だからってなんだ。働き続けろ、と言ったらパワハラだな。仕方ない。一ヶ月程度の休暇をやるか。
「牛丸を含めた未来人衆に、休みを与えよう。期限は一ヶ月だ」
「ありがとうございます」
牛丸はご満悦で部屋を出ていった。
今日は俺も疲れたし、本能寺の変をどうするかの話し合いは明日にしよう。布団を敷いて、中に潜り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます