伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その拾壱

 仁和が立てた計画は未来人衆だけに明かされた。また、俺と景頼が生きていることも未来人衆にだけしか説明されていない。はて、俺は仁和の考えていることがよくわからないのだが。

「政宗殿は要領を得ていない様子ですね。私のやりたいことがわかりませんか?」

「まったくわからん」

「最近、奥州周辺で魔術師と言われるような奇術を使う者を見たという人物の証言がかなりあります。彼、もしくは彼女は天然痘もあっさりと治してしまうようです。その魔術師ですが、江渡弥平の仲間だと私は考えています」

「その魔術師が江渡弥平の仲間だとして、何がどうなるんだ?」

「江渡弥平達には未来からの物資という強い力があります。天然痘を治す薬も未来からのものでしょうが、天然痘の予防薬はなんとかなっても治療薬となると......」

「奴らにはお金の力、つまり財力があるということだな?」

「正解です。江渡弥平達は天然痘ウイルスを各地にばら撒き、その天然痘を治してみせることによって魔術師の称号を得ようとしている、と考えるのが妥当でしょう。魔術師の称号を得たい理由は名声によって手に入れられる人々からの信頼度、といったところですかね」

「天然痘、か。人間にだけ感染する病気だ。俺が思うに、天然痘をはじめとする病気は人間の数が増えないためのものなのかもしれない」

「......2019年、コロナウイルスというものが世界で広まり始めました。コロナウイルスによって人間の行動は制限され、人間の数も減りました。不謹慎ふきんしんかもしれませんが、世界総人口を大幅に減らすために神様がコロナウイルスを生み出した可能性はあると考えています。人間、増えすぎましたから」

 天然痘は1979年から1980年に掛けて撲滅ぼくめつ宣言がなされ、前世ではすでに自然界では存在していなかった。それは人間にだけ感染する、という性質があったことが大きい。

 世界総人口の爆発的増加に伴ってコロナウイルスが生み出され、人間の数の調整に利用された。こんな仮説は誰でも思いつく。俺が言いたいのは、生み出したのがか、というところだ。

 俺は神が存在することを知っている。だからこそ、人間が生み出したとは限らないと考える。仁和も俺と同じ考えのようだ。

「人間、というか生物全般は目に見えないものには弱いからね。で、仁和は江渡弥平達と魔術師をどうやって倒そうと考えているんだ?」

「敵をだますにはまず味方から、とも言います。疑っているわけではありませんが伊達氏の家臣団の中に江渡弥平と繫がっている人物がいるかもしれないので、政宗殿と景頼殿が生きていることは未来人衆にしか話さないでください。政宗殿が死んだと思い込んで江渡弥平達が油断しているところを、我々が一気に蹴散らすという作戦なので」

「わかった、そういうことか。もし家臣団に内通者がいたら江渡弥平達に俺と景頼が生きてるってバレるからな。その点、未来人衆は個々人を信頼出来る」

「そういうことです」

 仁和の考えていることが大体わかってきたところで、ある疑問点に気付いた。

「江渡弥平の居場所、わからないんじゃねーか?」

「そこが重要ですが、すでに江渡弥平らしき人物がいる場所は突き止めました。雇っておいた忍者に逃走する鼬鼠殺しを尾行させたところ、ここからほど近い場所にいるとわかっています」

「さすが、手際てぎわが良いね。これからどうするんだ?」

「未来人衆だけでこっそりと米沢城を出て、江渡弥平の元へと向かいます。政宗殿が切断したアキレス腱もとっくに治っているでしょうし、敵は強いですよ」

 江渡弥平達が強敵だってことはすでに知っている。だが、奴らを倒さなくてはならない。未来の技術は戦国時代に持ち込んではならないからだ。

「鎧は重いから普段通り戦場に近づいてから装着するとして、仁和は武器を運ぶ方の班にいろ。お前は前線にいない方が良いだろ?」

「ええそうです。私は戦闘には不向きですから」

 そんじゃぶっ倒しに行こうか、江渡弥平!


「な?」アマテラスは勝ち誇ったようにツクヨミを見た。「死んでいない政宗を生き返らせるなんてのは、太陽神の我ですら不可能だということだ」

「なるほど、生きておられたのですね。あの猛毒を飲み込んでも尚......」

「軍配士である仁和のお陰で政宗の体に毒物への耐性が出来たようで、死はまぬがれることが出来たようだ」

「仁和? 誰ですかそれは」

「仁和凪、二十一世紀の日本人だ。時間をさかのぼって戦国時代に来た江渡弥平ら歴史改変計画の戦国派遣構成員第1期機動隊長だった人物。彼女は頭が良いから、たびたび政宗からは戦の相談をされている」

「江渡弥平の一味の一人なのですか!? なぜ政宗と行動を共にしているのです!?」

「説明が難しいな。そこらへんに散らばってる我が書いた政宗の小説を読めばわかるぞ」

 ツクヨミは紙の束に目を向けて、その分厚さに圧倒された。どれくらいの文字数があるのか彼女がアマテラスに尋ねたところ、軽い口調で40万字程度だと返事された。

「よ、40万字......」

「どうした? すでに絶望しているな」

 アマテラスはツクヨミの困った表情に笑い出し、ツクヨミは膝から崩れ落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る