伊達政宗、幽霊退治は伊達じゃない その肆
景頼の考えである、米沢城の埋蔵金はあり得る。確かにあり得るが、突拍子過ぎる。一応、埋蔵金が目的ってことで話しが進んだが成実についてまったく触れていなかったことを、寝る直前で思い出した。
幽霊が人によって作られたかどうかも話していなかった。というか、成実が倒れたことと幽霊が関係あるかどうかもわからない。あの会議が意味を持っていなかったことを理解する。
「あー」
前に進まない会議をしてしまい、頭を掻きむしった。
次の日、久しぶりに休みたくなった。最近、仕事がずっと続いていたから疲れるばかりだ。
何で遊ぼうか。景頼の持ってた未来の本とかは焼かれたし、将棋とオセロは飽きた。鷹狩りは体力使うから駄目。なら何をすれば良いんだ......。
トランプでも作ってババ抜きとかしようか。景頼は手先が地味に器用だから、作るのを手伝わせよう。木材を薄くスライスし、墨で絵を描いていく。細かい作業だ。
「景頼!」
「どういたしましたか、若様」
「トランプを作る」
「承知しました。手を貸しましょう!」
「うん」
景頼には未来人の記憶があるから、何かと未来の道具を作る際は重宝している。
木材を薄く切り出す作業を俺と景頼の二人でしていた時、成実の叫び声が聞こえてきた。何事かと二人で廊下に飛び出すと、成実のいる部屋が騒がしくなっていた。その部屋に突入すると、成実は部下を怒鳴りつけていた。
「どうした、成実」
「若様。こ、これは失礼いたしました」
「いや、良い。急に声が聞こえてきたから焦ったが、体は大丈夫か?」
「徐々に治ってきています」
「安静にしろよ」
成実の怒鳴った勢いで額から垂れた汗を拭き取ると、景頼が俺に耳打ちする。「昨日の夜、怪しげな行動をしていた者がいまして尾行しました。あの時は暗くて誰かわかりませんでしたが、今成実殿の歩き方を見て確信しました。昨日の夜に見た黒い影は成実殿でした」
「マジか!」
「はい。確かです」
幽霊の犯人が成実ってことか? 成実に限ってそんなことはない気がする。
「その話しをあとでくわしく聞かせてくれ」
「わかりました」
まずはトランプを一セット作り終えて、小十郎と愛姫を部屋に招き入れた。そして、先ほど俺に話したことを再度景頼に説明するように命じた。
「昨日(さくじつ)の夜、成実殿が周囲を警戒しながら二の丸三の丸を歩いておりました」
小十郎は驚き、俺と同じく成実に限ってそんなことはないと否定していた。でも、景頼が嘘を言っているわけがない。成実が夜におかしな行動をしていたのは本当だろう。昨日なら病で布団に伏していたはずだが、成実は歩いていた。病も仮病ということなのか。
「政宗様は成実殿を疑っているのでしょうか? 私は、成実殿が悪いことを企んでいるとは思えないのですが......」
「俺も、成実が悪人とは考えられん。本人の前で言及してみるのも一つの手なんじゃないか?」
「確かに、名坂の言うとおりだな。僕は賛成だ」
景頼も納得し、成実に言及することになった。言及する前に成実のことを調査もするんだけど、これがまた面倒だ。成実はずっと布団で寝ていて、その周りを部下が囲っているからだ。調べようにも、部下の目があっては思い通りには出来ない。
どうしようか腕を組んで悩んだ末に、俺が成実の病状を看るという口実で部屋に入って調べることになった。
成実の部屋をノックした。「成実~! 大丈夫か?」
部屋に足を踏み入れてみると、成実は咳き込んでいた。
「成実!!」
「あ、若様! わざわざ足を運んでもらえて、一介の家臣として名誉でございます」
「辛いならしゃべらないで、ゆっくり横になれ。ちょっと体を診てみたい。良いか?」
「若様の診察、ということですね? 大丈夫です。喜んで脱ぎましょう」
「ちょっ! 下は全部脱がんでも大丈夫だ。恥部は隠せ!」
「これはこれは、見苦しい姿をお見せしました」
成実は上半身を脱ぎ、俺はひとまず体に異常がないか確かめた。体に異常はなく、咳き込む原因も表面上はなかった。やっぱり仮病なのかもしれない。部屋を見回す。これといって変なものはない。武士として当たり前の日本刀もちゃんとある。部下は、きょろきょろする俺をじっと見ていた。
「成実。もう服を着て良いぞ」
「どんな病はわかりましたか?」
「さっぱりわからない。俺は薬学しか学んでないし、それも独学だ。俺の診察にも限界はある。独眼竜と呼ばれるようになったが、竜ほど能力も無い」
「そうですか......」
「一つ質問がある」
成実は服を着て、顔を上げた。「何でしょうか?」
「ぶっちゃけて尋ねるけど、本当に病気?」
「私には病気かどうか判断出来ませんが、体調が優れていないのは本当です」
「そ、そうか。い、痛い部分はあるか?」
「体で痛いところですか......えっと右足の膝が痛いですかね」 「右足の膝? わかった」
俺は成実の右足の膝を手で触ったりして確認する。別に痛そうではないな。
「今日はここらで引き上げる。じゃあな、成実」
「若様も、お気を付けて」
部屋から出ると、廊下を走り抜けて小十郎に泣きついた。
「何で泣いてんだよ」
「成実の声が怖かったー」
成実に病気って嘘じゃないかって聞いた時、あいつの声が怖い。恐怖を感じた。
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