伊達政宗、側近の看病は伊達じゃない その陸
銃声と同時に小十郎は自分の胸を押さえたが、弾丸など銃口から飛び出していない。
「あれ? 若様、どういうことですか?」
「火薬と弾丸を詰めたように見せかけただけで、実際に詰めたのは火薬だけだ。だから、今の音は火薬が爆発した音だ」
「なぜこのようなことを?」
「もしかしたら、小十郎が江渡弥平と繋がりがあるかもしれないと思ったんだ。だから、空砲にして撃った。もし江渡弥平と繫ががっていたら、俺が撃つ前にアクションを起こすはずだからな。それによって、小十郎が江渡弥平と繋がりがないことが証明された」
小十郎は安堵のため息をもらした。
「小十郎って未来人だろ?」
「へ?」
「未来人でなきゃ、宴会の時に言っていた言葉に説明が出来ない。戦国時代の奴に、未成年が酒を呑みすぎると駄目だっていう概念はそもそもないからな」
「私を殺しますか......?」
「ハハハ! 安心しろ。俺も未来人だ。1973年に誕生した。千葉生まれの千葉育ち。職業は、高校で歴史の教師をしていた。だが、殺されて目が覚めると目の前に神様がいた。そして、俺が希望した伊達政宗に転生させてくれたんだ」
「では、若様も未来人だったんですか!?」
「お互いの正体がわかったのに、まだ敬語か? 前世での俺の名前は
「僕も転生者。前世での名前は
「へー。俺より若いな。だが、生まれ変わってからの人生を足したら同じくらいの歳だな。転生させてくれた神様の名前は? 俺は犠牲神・アーティネス」
「確か、犠牲神・バルス?」
「破滅の呪文じゃねーか!」
「僕も小さい時に天空の城があったら良いなと思っていました」
「俺と同じじゃん! じゃあさ、ラピュタの前の作品ナウシカは見たか?」
「はい! あれも面白いです! 感動するシーンも多々あったり、自然との共存の大切さを考え直します。スタジオジブリは最高ですよ!」
正確に言うと、『風の谷のナウシカ』はスタジオジブリではない。『トップクラフト』という制作会社がナウシカを制作した。で、ナウシカが成功を収めた。そして、次回作『天空の城ラピュタ』を制作するためにトップクラフト改めスタジオジブリとしたのだ。だが、それは言わないでおこう。
「だな。前世ではどんな遊びをする? 俺の世代はメンコとかベーゴマとかだが」
「スマートフォンを使ったゲームが中心です。たまにパソコンでゲームもします。あ、マイクラって知ってますよね?」
「
「あれは楽しいですよね。自分で世界を創造出来るところが最高です!」
「だね......」
自分の倉の内装を変えられるゲーム、ということなのかな?
「あのさ、名坂って呼んでいいかな?」
「いいぞ。誰かがいる時は駄目だが、名坂と呼んでも大丈夫だ。俺も、神辺って呼んでいいか?」
「はい!」
俺達は日本のことをたくさん話し合った。敵意のない現代人と話すのは久しぶりだ。それはもう、楽しい時間だった。転生してからの寂しさが全て吹っ飛んだ。この時代に来て、初めての仲間が出来た気分だった。
小十郎が未来人ならば、倒れた理由は自然とわかってくる。とある中毒だということが。
「もしかして、神辺......戦国時代の戦の習わしに慣れようとしているんじゃないか?」
「あ、ああ」
二週間、三週間が経過した。小十郎の体の異常が少しずつではあるが、回復していった。一ヶ月。小十郎の体は完治した。俺の推理は完璧に的中していたらしい
的中。そういえば、近頃弓矢の練習をしていなかったことを思い出した。小十郎は剣術は得意なのだが、弓矢はからっきし出来ないわけだ。よしよし。そのことに付いて談笑でもしながら弓矢をやろうと思うと、重い腰が楽々と持ち上がった。
小十郎を呼ぶと、弓矢をつかんで庭に出た。的は用意してある。そのまま弓を引いて矢を放った。的にはあまりうまく当たることはないが、小十郎との談笑は面白かった。もうすぐ俺が政略結婚をすること、それと初陣を飾ることも話した。初陣の際は、小十郎には自分の命を大切にするように言っておいた。
「身の危険を感じたなら、俺を捨てて逃げ帰れ! いいか?」
「わかった。だけど、できるだけ名坂を守ってみせる」
「俺は歴史に精通しているから、戦でもうまく勝ち抜けるはずだ。だが、神辺は弓矢を扱えないだろ? 戦では刀での斬り合いだと死亡率が高い。日本刀は携帯するが、戦ではあまり使うなよ」
「肝に銘じておこう」
戦の心得を一通り伝授して、中毒症状の話しに話題を移した。
「体は大丈夫なのか?」
「名坂のおかげで、もうすでに治った感じだ」
「そいつは良かった。もう二度と、やるなよ」
「そうするよ」
お互い精神年齢が50代にしては、こちらの世界では若い気持ちでいられる。前世で出来なかったことを、この世界でなら出来る気がする。
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