伊達政宗、側近の看病は伊達じゃない その伍
城内といってもかなり広大だ。どこからどのように探せばよいか、見当も付かない。
まず、忍者の侵入経路を考えてみよう。忍者の道具には『
俺は走って塀まで向かい、顔を地面に付くくらい低くして確認を始めた。一時間丁寧に確かめていったが、鉤縄を使ったような跡はなかった。
腕を組みながら、今度は変装していないか確かめるために家臣を一人一人見ていった。怪しい人物は見た限りではいない。忍者が城内に侵入した形跡もなければ、疑いの余地もなかった。顔をしかめながら、小十郎の元へ戻った。
「若様。怪しい人物などを発見出来ましたか?」
「いや、まったく見つけることが出来なかった。景頼に看病を任せた挙げ句に怪しい人物すら見つけられなかった。本当にすまん!」
「私は一家臣です。若様が頭を下げるほどではございません」
「俺は平等を目指す。それほど上下関係も重んじない主義だ」
「は、若様。それより、先ほど小十郎殿がまた痙攣のような症状を起こし、それから腹痛を訴えておりました」
「腹痛か。ふむ。やはり、医者の言うとおり、毒の可能性が高いだろう。今は安静にしていた方がよいか。後は俺が看病しておく」
「私もできる限りそばにいさせていただきます」
「そうか? まあ、俺はかまわないが......」
小十郎は三日ほどで回復していき、四日目には立ち上がった。俺は驚いたが、医者の言うことの方が正しいからスルーした。
「小十郎。体に異常はないか?」
「もうバッチリです。若様には心配をかけさせてしまい、申し訳ございません」
「以前、お前に二回ほど看病された。これでお相子様だ」
「いえ、私も家臣の端くれ。一介の若様の守役でございます。そのような立場の私が、本来守らなくてはならない若様に守られてしまい、誠に面目ないことです。お詫びと言っては足りないでしょうが、私の命一つでどうかお許しください」
「いやいやいやいや! 死ななくて良いから! 大丈夫! 気持ちだけで大丈夫!」
「さようですか? さすが、器もでかくて肝の据わった若様です!」
大胆な家臣だよ......まったく。前世でも豪胆なんて言われたことはないぞ。言われた覚えのある褒め言葉は、大失態をやらかした状況での上司からの『前向きで良いね』という一言。それに『ありがとうございます!』と答えたら周囲から冷めた目で見られた。あれから二十年くらい経った今ならわかることだが、あれは単なる嫌みの言葉だったのだと思う。
「小十郎。今は絶対安静だ。ゆっくり寝ていてくれ」
「わかりました」
五日目からは小十郎は通常通り作業諸々を再開させた。俺は小十郎が倒れた原因を探るために、倒れた日の食膳の状態などを調べてみた。それでわかったことは一つある。小十郎の食膳には簡単に毒を盛れることだ。
内部犯を疑いたくないし、外部犯を疑ってみた。すると、江渡弥平しか思いつかない。奴の狙いが歴史を変えることただ一点なら、俺や小十郎を殺すことによって達成される。小十郎の食膳に毒を盛った奴は江渡弥平と繋がりのある人物としか考えられない。
毒を盛られたなら、盛られた毒も重要になってくる。小十郎の症状から導き出される毒といってもかなりの数がある。そこから絞り込んでいくのは神業に近い行為だ。天才ならともかく可能だとしても、凡才の俺にはとっても出来ない。ため息をもらして、床に腰を下ろした。
この時代には防犯カメラもないし、事件の大半は迷宮入りだな。だとすると、もう切り上げた方が良いか。手掛かりもまったくないところからのスタートだったし、当然と言えば当然ではある。そんなことを思いながらあくびをすると、ふとある考えが頭をよぎった。
──小十郎が江渡弥平と繋がりがあるかもしれない。
その考えは、突飛のようであり得ないわけではない。なら、小十郎が倒れたのは自作自演で俺を混乱させる目的があったのかもしれない。だとしたら、小十郎は......殺す!
俺は火縄銃の強化版を握りしめると、小十郎の元へ向かった。
「小十郎!」
「若様。どうしました?」
「ちょっと、平原に二人で出掛けないか?」
「平原、ですか?」
「そう。平原だ」
「良いですね。私は大丈夫です」
「そうか。馬を急いで準備しよう」
城を出て馬にまたがった。最近は馬にうまく乗れるようになってきた。そのまま、小十郎とともに馬を駆けて平原に着いた。馬から飛び降りると、小十郎も俺の後を追って降りた。俺はふところから火縄銃の強化版を出して、火薬と弾丸を手に持って詰めていった。さくじょうで押し固め、針を熱した。その銃口を小十郎の胸に向けた。
「片倉小十郎景綱!」
「わ、若様!?」
「貴様にはここで死んでもらう! 最後に言い残すことがあったら言え!」
「あの、若様。冗談ですよね......?」
「ほお? これが貴様には冗談に見えるのか? 先ほど貴様の目の前で火薬と弾丸を詰めていたのだが?」
引き金に指をかけた。俺は引き金を力を込めて手前に引いた。その途端に、煙が上がってすさまじい音が聞こえてきた。銃声である。
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