伊達政宗、プロポーズは伊達じゃない その肆
「拷問だと?」
「そう、拷問だ。我々のターゲットである時間旅行者・江渡弥平の配下がお前だというのなら、拷問しないわけにはいかない。ルビーも奪っておいて拷問は嫌だ、とは言わないでくれ」
「は? ルビー? テメェは何を言ってんだ!」
「お前の荷物の中から指輪を見つけた。あの指輪についていた宝石はルビーだろ?」
「何を言っているんだ? 頭でも狂ったか? あの指輪に付いている宝石はアレキサンドライトだぞ」
「アレキサンドライト? ......そうか、そういうことか!」
アレキサンドライトは当たる光の種類によって色が変わる宝石だ。行灯や提灯などのロウソクの光か当たると赤。太陽などでは青や緑。鈍い赤色から鈍い青緑色という変化しかないアレキサンドライトもあるが、先ほどのようにルビーに間違えるくらいの鮮やかな赤ならかなり価値は高い。また、アレキサンドライトは1800年代に発見された。
つまり、これがアレキサンドライトならこの男が未来人と示すということだ。アレキサンドライトは戦国時代には知られていないし、色の激しい変化の価値をこの男をわかっている。
廊下ですれ違った時にルビーに見えたのは行灯のロウソクのせいだ。
「よくわかった。指輪をお前が盗んでいないことはわかっが、逆心には変わりない。貴様の名前は何だ?」
「......
「そうか、亀山か。で、亀山。貴様の処分はあとで考えるから、大人しくしてろ。小十郎はこいつが逃げないように見張れ。俺は竺丸派の家臣の奴らの内にルビーを盗んだ輩がいないか探し出す!」
俺は家臣の部屋を探し回って、ルビーの付いた指輪を発見した。指輪はシンプルだから、似たのもたくさんあっても不思議ではない。もっと複雑な構造の指輪を発注すれば良かったと、今になって後悔した。
指輪を盗んで所持していたくそ家臣は、やはり竺丸派の者だ。後日、そいつを内密に処分した。殺してはいないから、安心してほしい。
指輪を発見して戻ってみたら、小十郎が倒れていた。俺は小十郎に駆け寄って、上半身を起こさせた。
「神辺、大丈夫か!」
「亀山が、逃げたんだ......。見失う前に、追ってくれ」
「いや、僕より先にあいつを何とかしてくれ。頼む......」
「......わかった。捕まえたらすぐに戻ってくる。あいつはどこに向かった?」
小十郎が示した方向を突っ走った。すると、前方に亀山の走っている姿を見つけた。
「亀山!」
亀山は走るスピードを加速させた。俺も大股にして追いつこうと奮闘した。亀山はタイムマシンに乗り込み、ボタンを押した。
「伊達政宗! 貴様を許さない」
「待て!」
タイムマシンは亀山を乗せて消え去った。俺は地団駄を踏んだ。小十郎が気になり、元来た道を引き返して、亀山が寝ていた部屋に戻った。
「神辺、どこが痛い?」
「お腹......が、痛む」
「腹か? わかった。待っていろ。冷やせるものを持ってくる!」
「助かる......」
小十郎は腹部に打撃を受けていた。かなりズキズキ痛むらしい。だが、数日看病をしたらすっかり治った。
指輪を取り返した翌日、俺は愛姫を部屋に招いた。
「政宗様。急にどういたしました?」
「実は、400年先の未来には結婚指輪というものがある。結婚をするときに、相手に渡すのだ」
緊張しながら、ふところからルビーの付いた指輪を出して愛姫の手を握った。丁寧に、愛姫の指に指輪をはめた。
「まあ、素敵な宝石ね」
「それが、結婚指輪だ。俺は、仲間を大切にする主義だからな」
「ありがたく、いただいておきます」
恥ずかしかったから、顔をそらしてうなずいた。
さて。政略結婚を終えて、次に待ち構える難所は初陣だ。敵方はお隣りの戦国武将の
小十郎とは、すでに初陣を勝利で飾るために綿密な会議をしてきた。
「俺の初陣で重要なのは、今輝宗から任されている蘆名との外交だ。蘆名に働きかけて援軍を送ってもらえれば、初陣は必ず勝利に終わる」
「なら、これからも蘆名とうまく接するのが大切だな」
「それもそうだな。援軍が来る前には戦を有利に進めておきたい。弓矢も有用だし槍もだな。足軽には鉄砲は無理だから、忍者も雇う」
「足軽には槍か?」
「その通り。足軽が一番扱いやすいだろう」
「弓矢は?」
「各家臣だ」
「僕も?」
「当然だ」
小十郎と地形なども確認し、優勢を保つ政策を講じた。それは数ヶ月から一年、二年に及んだ。そして、その時がやってきた。
1581(天正9)年、五月。
「小十郎、景頼、成実、以下ここにいる者よ! 前方へ、馬を駆けろ!」
一斉に馬を走らせた。槍を握り、敵方の鎧を着た者を見つけ次第、槍を振り下ろした。
実際の戦場では、敵か味方かまったく見当がつかない。今回は鎧をじっくりと見たが、死にそうになると、そこまで慎重ではいられない。誤って味方を大量に殺してしまうことなど、かなり多くあることだ。序盤はミスをしないように、敵を見分けなくてはならない。
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