伊達政宗、プロポーズは伊達じゃない その参
俺達は指輪を指にはめた家臣を追いかけた。その家臣は捕まるまいぞ、と死ぬ気で走っていた。その家臣が角を曲がったから勢いよく角まで走ったが、人の姿はなかった。
まだお天道様が明るければ、奴の顔をはっきり見ることが出来たのだが、やられたな。ルビーを盗られたことを輝宗に言ったら、輝宗からの信頼度はガクンと落ちてしまう。もしかしたら、竺丸が伊達家の家督を継いでしまうかもしれない。それはまずい! 何としてでもルビーの指輪を取り戻し、輝宗からの信頼度を維持しつつ愛姫に指輪を渡してプロポーズをしなくてはいかん。
あの家臣野郎はどこに逃げやがったんだ。奴が角を曲がった先は袋小路だった。逃げ道など皆無のはずだ。なら、上かな? 顔を上に向けた。上には逃走経路になりそうなものはなかった。俺は首を傾げた。
「名坂。あいつはどこに逃げた?」
「それが、急に姿を消してしまった」
「なるほど」小十郎は腕を組んだ。「もしかして、あの野郎は忍者だったんじゃないか?」
「忍者にしては、足取りなどがちゃんとしていなかったように、俺には見えたのだが......」
「どうなのかまったくわからんが、忍者以外に説明はつくのか?」
「いや、つかんだろうな」
俺と小十郎の二人は辺りを丁寧に見回ったが、まったく痕跡が残っていなかった。俺は首を傾げた。「江渡弥平の差し金だという可能性もあるな。それか、あの家臣が未来人ということもありえる」
「未来人が伊達家の家臣に変装して紛れ込んでいたか、もしくは家臣は転生者・転移者かもしれないな」
「確かに、それもありえるが動機はないだろ。まずは宝石を隠し持っている奴を探し出して処分するまでだ」
「処分?」
「当然だ。俺の愛姫に渡す予定だったルビーがはめられた指輪を、俺に断りもせずに持ち出したのだからな!」
「名坂、怒りすぎだ」
「仕方ない。前世では未婚だし、彼女が出来た経験もない。俺史上初の正妻・愛姫なのだから、俺達の邪魔をした時点でそいつをぶち殺す」
「そう焦るな」
今日は城内を歩き回って怪しい奴らを探したが、宝石泥棒は見つからなかった。もう眠くて目が大きく開かなくなったし、小十郎と離れてそれぞれ眠りについた。
次の日の夜、小十郎と俺は
「いいか、神辺。誰かが寝ている部屋に忍び込む時は、忍者に習って口に小さい紙をはさんで息を細くするんだ。息づかいで、かなりの高確率で忍び込んでいることはバレる! 息を細くするんだ!」
「わかった」
紙を口にはさみ、部屋に侵入した。そして、部屋の荷物を慎重に調べていった。十三個目の部屋に侵入し、音を出さずに荷物を動かしていった。すると、指輪が出てきた。
俺は小十郎に手招きをした。
「どうした?」
「指輪を見つけた!」
「どれだ?」
「ほら......」
小十郎は顔を真っ青にした。指輪に付いていた宝石の色は赤。鑑定の力はないが、指輪の形状は俺が鍛治屋に注文したものと似ている。
俺は提灯を持って、寝ている奴の顔を覗き込んだ。見たことない奴だが、愛姫に渡す宝石を盗んだからには生かしてはおかない。寝ている隙に口に布団を突っ込み、普段から携帯していた短筒の火縄銃に火薬と弾丸を詰めた。近距離だから、火縄銃でも申し分ない殺傷能力はある。
縄に火を着けた。
「おい、起きろ!」
俺の声に反応して、盗人は目を覚ました。
「貴様、政宗!」
「そうだ、政宗だ。なぜ、指輪を持っている? お前は、昨日逃げた奴だよな?」
「だとしたら、何だという?」
「火縄銃の銃口を貴様の口の中に押し込み、引き金を引くぞ」
「銃声が響いて、全員が集まるぞ」
「貴様を殺して誰が俺を批難出来るか? 貴様には逆心の疑いがある。殺して当然というものだ」
「......何を望む?」
「貴様のボスは? 目的は何だ?」
「それに関しては口が裂けても言えないな」
「なら、引き金を引いて、貴様の
俺は引き金に指をかけた。
「待て、政宗!」
「この期に及んで命乞いか? 醜いぞ」
「誰でも自分の命を最優先にするはずだ。それはお前も同じだ」
「は? 俺は仲間を大切にする」
「本当かな?」
「殺す......!」
「あ、待て待て待て待て!」
「どうした?」
「わかった。ボスを言う」
「ボスは?」
「江渡総司令官だ」
「江渡? 江渡弥平か!」
「そうだ」
「お前らの目的は?」
「それは、俺みたいな下っ端にはわからない。歴史改変をする、というだけで具体的には不明」
「お前らのバックにいる組織は?」
「クライアントの秘密は明かせない」
「お前は未来人だろ? タイムマシンでこの時代に来たのか?」
「そうだ」
「タイムマシンの設計図は持っているか?」
「ないな」
「牛丸は所持していた」
「牛丸だと!」
「どうした?」
「牛丸は副総司令官の名だ! 副総司令官のような幹部層なら、タイムマシンの設計図を持っていて当然だ」
「なるほど。貴様はどこら辺の立場だ?」
「歴史改変計画第5期戦国派遣構成員第5機動隊長だ」
「機動隊長? かなり立場が上な気がするが?」
「機動隊は立場が低い。その中の第5機動隊の隊長なんて下から三番か四番だ」
「上から役職を言え」
「総司令官、副総司令官、
「戦国派遣構成員決死隊?」
「計画通りにことが進まなかった場合、決死隊は爆弾を背負って敵地に突っ込んで自爆する」
「最低な野郎だな」
俺は火縄銃の銃口を布団に当てて、一発撃った。誤作動で弾が発射するのを防ぐためだ。この男にはもう火縄銃は必要ない。
「さて。お前はこの後、じっくりと拷問する」
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