伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その陸

 まずい。今日は戦い過ぎて疲れたな。この状態では夜行隊に訓練をさせることは出来ないか。

「今日は一旦解散だ!」

 ここまでの疲労感は久しぶりに感じた。自室まで体調が持ってくれれば良いが......。こんなところで倒れていては、夜行隊どもに道を示す立場ではなくなる。

「んじゃ、俺は帰るぞ」

 城に戻ると、長い廊下を少しずつ進みながら自室まで辿り着いた。荒く呼吸をしつつ布団を敷き、そこへ潜り込みながら眠りに就いた。


 俺の睡眠が故意に破られた。もう少し休んでいたかったが、こんな時に誰が起こしに来たってんだ。

「ちくしょう、何起こしてんだ仁和!」

「すみません。体調が悪そうだったので、薬を持って参りました」

「薬か。俺が調合をしたものか?」

「私が調合をした薬になります」

「ならば、効き目はお墨付きってもんだ。その薬を飲もう」

「では、水を持ってきます」

「ああ、頼んだ」

 俺は日本史の次に薬学にくわしいという自負があるが、仁和だけには敵うわけがあるまい。彼女はいろいろな知識が豊富だ。どこから得た知識なのかはあまり話してはくれないので、何かあるんだろうと思って強引には尋ねていない。

 仁和が持ってきた水とともに薬を飲むと、疲労感が嘘のようになくなった。

「それとですねら今回の政宗殿が飲むべき薬ではないのですが以前私が作った薬を差し上げます。これを有効活用してください」

 仁和はしずくの形をした袋を渡してきた。俺はそれを受け取り、しばし観察した。

「これは何だ?」

「ヒグマの胆嚢たんのうを乾燥させたものになります」

「何か汚いぞ」

「まあ、当然の反応でしょうね」

「で、このヒグマの胆嚢は二本松城攻めに出向く最中に襲ってきたヒグマのだろ? 解体をしたのは仁和だからな」

「ええ、そうです。そして政宗殿にヒグマの胆嚢を受け取ってほしいのです」

「なぜだ?」

「実はクマの胆嚢を乾かすと栄養剤や腹痛薬、解熱薬として効果を発揮するんです。この胆嚢は乾かしてあるので薬として使えます。若様なら役立てられると思ったので渡しておきます。高値で売れるので、お金に困ったら売っても構いませんよ」

「おう、ありがと......。ただ、胆嚢と言われると持っていて気分が悪くなるんだが?」

「仕方ありません。我慢してください。忍耐力がなければ当主は務まりません」

「だよな」

 ヒグマの胆嚢を貰うことにした。クマは捨てるところがないと頻繁に耳にするが、食用だけでなく薬として用いられることもあるんだな。仁和には教わることしかないが、俺も頑張らねば!

「では私は失礼いたします」

 仁和が部屋から立ち去ったので、俺は布団から抜け出てヒグマの胆嚢を天井に吊してみた。

「う~ん。ちょっと胆嚢が不気味だ。天井にクマの内臓を吊す時が来るとは、俺自身も驚きだよ」

 他に吊すところもなかったので胆嚢はこのままにするとして、今日も夜行隊を鍛えに行かないと。正直に言うと、三津木が夜行隊最強ってわけじゃないのには頭を抱えた。自称夜行隊最強の鼬鼠殺しは弱かったからな。

 というか、鼬鼠殺しなどという蔑称べっしょうをわざわざ使うのはザコってことだろ。本名が気になるぞ。

 木刀を握ると部屋を飛び出し、舞鶴の元へ走った。するとすでに夜行隊は舞鶴指示の元で訓練を開始しており、俺は盛大に遅刻をしてしまった。

「すまんすまん舞鶴。寝過ごしてしまった」

「気にしないでください。若様は伊達氏の当主なのですから、休むことも必要ですし」

 舞鶴が優しかったので安心して地面に腰を下ろすと、生意気な態度で堀田が近づいてきた。

「おいおい、それでもテメェは当主か? 当主ならばその自覚を持って早起きぐらいしろよ」

「おっ! 良いこと言うね。ただ、当主というのも大変なものなんだ。戦場では敵から首を狙われ、城に帰ってからも暗殺者におびえる。だからこそ俺は強くなった。強さを手に入れた」

「強さ? 刀の扱いと体術に多少長けているだけだろ。それを強いとは言わん!」

「そうかもね。んじゃまあ、昨日は本気を出していなかったということを教えてあげよう」

 すぐに立ち上がってからカエルのように脚力と腕力で堀田に接近し、威力を拳の一点に集中させながら背中を連打した。

「ガハッ!」

「俺のパンチを七発食らって気絶。思ったよりは耐えたか」

 倒れた堀田を引きずりながら隅っこに連れて行くと、起きるまでは放置をした。

 俺は夜行隊の皆の方へ振り返って微笑ほほえんだ。「君ら、昨日のが俺の本気だと思ってた? もし思ってたなら、今のうちに考えを改めておくと良い。俺に勝とうなんざ、貴様らじゃ百年早いわ!」

 少し威圧をしてみると、夜行隊はビビりまくっていた。そこまで怖いかと思いつつ、もう一度地面に座った。

「今日は皆の動きを見ながらアドバイスをするだけにする。昨日戦ったのは俺と君らの圧倒的な差を見せつけるためだけだから」

「ふう」舞鶴はこめかみを押さえながらため息をつく。「では、訓練を再開します。刀を両手で握ってください。そのまま振り上げ、勢いよく下ろすっ!」

 刀の扱いを見ていると、筋が良いのが昨日戦った五人以外にも数人いる。急造した隊だからまだまだ情報が少ないが、強い奴がいるのも確か。伸びしろはあるみたいだ。

 もしかすると、俺に勝つような奴も現れる可能性がある。わくわくするな。

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