伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その拾肆

 米沢城を出発した俺達は江渡弥平がいると思われる場所へ向かうべく、仁和が先頭となって案内を務めた。江渡弥平達に接近が気付かれぬよう、仁和は木がしげって見つかりにくいような道を選択して案内しているのだと見受けられる。

 まあ味方が夜行隊と未来人衆の総勢二百名弱くらいならば、俺が本気を出せば全員透明に出来る。何たって、ジョーのお陰で身につけた技だもんな。有効範囲は広いだろうし、馬も含めて透明化は可能だ。

 ただ、二百人くらいも透明化をするとして維持にかなりの力を使わなくてはならない。これから戦闘をするのだから、ここで力を無駄に使うわけにはいかない。仁和に案内を任せておいて良かったな。

 江渡弥平は戦力として数えられていないはずだ。仁和と同じで、頭を使うことに長けているだけで戦闘には向かないのが江渡弥平だ。奴は二十一世紀最先端の武器を身につけているが、筋力はあまりないから本体は無力。

 つまり、江渡弥平を倒すには真正面からではなく不意打ちが良い。武器さえ取り上げられれば、江渡弥平達がどのようなことをしようとしていたのか聞き出せる。あくまでも目的は江渡弥平の無力化、生け捕りというわけだな。

 不意打ちには透明化の技が使える。気配を殺すのはうまい方ではあると思うから、こっそりと近づくのは容易だろう。問題は江渡弥平以外の従者だ。江渡弥平本体は弱いのだから、従者は強い者を揃えていると考えられる。

 手練てだれならば俺が気配を殺したとしても勘づいてしまう。ならば空中から攻めるのも手だが、空中から落下しつつ攻撃すると加速度が攻撃の威力に加算されてしまう。そうしたら、下手をすると江渡弥平を殺してしまう可能性が高い。

 やっぱり多勢で攻めるよりは、俺が単騎で本陣に突っ込んだ方が勝率は高いな。江渡弥平を捕まえてしまえば敵方も降参すると思われるから、多対一という戦況になる。出来れば味方が俺の助けに来る前に決着を付けたい。単騎での短期決戦が望ましい。

「政宗殿。聞いていますか?」

「ん、仁和か。案内はどうしたんだよ」

「やはり話しを聞いていなかったのですね。前を見てください。すでに敵陣営の目の前まで近づいていますよ」

「おお、もう到着したのか!?」

「では戦闘開始ですね。若様、ご武運を」

「俺を舐めるなよ。奥州を統一して、いずれは天下を統一するのが伊達政宗様だ。覚えとけ」

「以後、覚えておくとしましょう」

 俺は木刀を手に取り、先頭に立った。戦場で木刀を持つとは少し心もとないが、科学的に真剣より木刀の方が折れにくいと証明されている。相手が刀を持っているならば、武器を壊すのが正攻法だ。木刀さえあれば、真剣を破壊出来る。最悪の場合は神力に頼る。

 江渡弥平達がいるのはあの建物の中。学校を思わせるほどに大きな建物で、あの中から江渡弥平を探し出すのは大変だぞ。

 深呼吸をして、胸に手を当てた。「進め、敵は目の前だあ!」

「「行くぞーーーーーーーーーーーー!!」」

 一番槍は俺がいただいた。俺が一番に建物内に侵入したんだ。一番なのに木刀を持って江渡弥平の元へ向かおうとしたが、思った通り従者が邪魔をしてきた。俺が先手を許したということは、敵は相当の手練れだ。

「名乗れ! 俺は伊達政宗だ。貴様は?」

「これは失礼した。私はちまたで噂をされている魔術師である。名を鬼神おにがみ源氏げんじと言う。言うまでもないだろうが、私は君達の四百年先に生まれた未来人だ」

「貴様が魔術師か! 天然痘を完治させるとかいう、くそペテン師め」

「なるほど、貴殿が江渡弥平ボスと互角の力を有するという独眼竜か」

「なっ!? あいつと俺が互角だぁ? あいつは生身はザコでしかねぇだろ。......まあ良いか。おい自称魔術師! 武器を出せよ。一騎討ちだ」

「残念ながら武器は持っていない。戦闘スタイルは体術を駆使するものでね」

 体術か。ならば木刀は不要だ。正々堂々、俺の身体能力と人外な神力を使って勝負してやるよ。手始めに、神力を使わずに攻めてみよう。

 腕にスピードを乗せて腹にパンチを繰り出すと、鬼神はそれに耐えてから後退した。

「なかなか重いパンチだ。伊達政宗、貴殿もかなり強いな」

 思っていたほど強くなさそうだ。魔術師と名乗っているのだから、その時点であまり期待はしていなかったが。しかも御影と鐵の外見とはまったく違う。どうやら魔術師=陰陽師ではなさそうだ。つまらないから戦いを早く終わらせようか。

 全身を透明化させて気配を殺して背後に立つと、腕で首を締めながら膝蹴りを食らわせて倒れさせた。あとは股間を集中的に蹴って、気絶するまで追い詰めてやった。仁和から預かっていたロープで急いで縛り上げると、江渡弥平を目指して走り出す。

 透明化と木刀を使って雑兵を倒し、手練れは気絶してからロープで縛ってから先へ進んだ。すると、今までの敵とは違って肌に突き刺さるような殺気を持った者が立ちはだかった。少し強そうな雰囲気だったので後退しようと背後に目を向けると、挟み込まれたことに気付く。

 ここは建物の廊下であり、逃げ道は存在しない。調子に乗りすぎてしまったな。

 冷静に敵二人の戦力を見極めようと顔を見ると、真壁が言っていた人相と一致していた。振り替えて後ろにいる奴の顔も見た。まさか......いや、間違いない。

「陰陽師の御影と鐵か!?」

「「正解」」

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