伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その伍肆

 突っ込んできた奴の首根っこを掴み、そのままそいつの首をねじろうとするが、逆に俺の体が強く締め付けられた。

「あー、ちょ、痛い痛い!」

 俺が巨体野郎に捕まえられている間に、仁和には仲間を呼ぶように合図を送った。合図に応じて仁和は寺に戻ろうとするが奥からヒョロガリの銀髪男が出てきて、その男が仁和の行く手をはばんだ。

「困るな」銀髪男は巨体野郎に目を向ける。「まったく、仁和凪さんも剣崎けんざきいおり君も勝手な動きはしないでほしいですよ」

 どうやら巨体野郎は剣崎庵とかいう名前らしい。知らなくても良かった情報ではあるがな。

 仁和は依然いぜんとして固まったままだったので、俺は奴らの情報を少しでも聞き出すために専念した。

「おい銀髪男! お前らはいったい何なんだ?」

「そうでした、自己紹介もまだでしたね。──剣崎君もそろそろ彼から手を離してください」

 銀髪男の指示で剣崎は俺から手を離し、痛みがある部分をさする。「助かるよ。剣崎とかいう奴が俺を掴んだままだったら話しにくかった」

「それは失礼しました。さて、申し遅れましたね。私は強欲の罪人・エリアスです。魔女教の司教を務めさせていただいておりました。知識や情報を強く欲してしまったため七大罪の一つである強欲を犯し、キリシタン宗から追われる身となってしまったので魔女教に下りました。私は情報屋と呼ばれていて、お察しの通り戦闘なんて出来ませんよ」

「魔女教? 何だよそれ」

「魔女教とは教祖と原初の魔女達を中心として、キリシタン宗に立ち向かうべく発足ほっそくした新興しんこう宗教団体です。この宗教団体の目的はただ一つ、世界の真理を知るためですよ」

「お前も真理なんてものが知りたいのか?」

「私は教祖から直々に''強欲''の二つ名をいただいた身です。その名の通り、知識を何よりも強く欲していますので」

 ふむ、こいつら二人を素手で相手するのは難しい。かと言って仁和は戦闘には向いていない。かろうじて刀が振るえるという程度だ。

「お前らが俺達に接触する目的は何だ?」

「魔女教の目的は真理を知ることです。真理を知るということはこの世界の創造主たる神を知るのと同義になります。しかし伊達政宗は真理を知る障害になると教祖が判断いたしました。よって、処分対象です」

「は? 何で俺が処分対象なんだよ。つうか''魔女教にとっては''ってどういうことだ?」

「あなた様が処分対象な理由は、まず生命の魔女様が飼っていた犬をあなた様が奪ったことです。これがなければ見逃していたようですがね。次にその目。日本では昔から一つ目の怪異の類いは神格化されているのは知っていますか?」

 俺は同意を求めるように仁和の方を向いた。彼女はため息交じりに一度だけうなずいた。「そこにいる銀髪のエリアスの言っていることは正しいですよ。実際に一つ目小僧は山の神が落ちぶれた姿なのだと言われていますし、天目一箇神アメノマヒトツノカミやサイクロプスは隻眼の神様です」

「仁和さん、あなたは物知りですね。良いですよ、あなたみたいな人が大好物なんです。ええっと、話しを戻しますが隻眼であるあなた様は、先ほど仁和さんが例として挙げた怪異や神達と同等の存在になる可能性があるんですよ」

「それはつまり、隻眼の俺が神に近しい存在になることを魔女教は危惧してるってことでいいのか?」

「理解が早くて助かります。単眼の方はこの世に数多くいますが、あなた様ほど突出した戦闘能力を持っている者は少ないゆえに魔女教が目を付けていたんです。本日はそんなあなた様とお話しをしたく、私と剣崎の二人であなた様の元を訪れたのですよ」

「話しをするだけなら、何でそこの剣崎が俺に攻撃してきたんだ?」

「彼は強い方と出会うと戦わずにはいられない性分のようで......。ご迷惑を掛けて、どうもすみません」

 ということは、少なくとも今回はこいつら二人と戦わなくて良いということか。だが九頭竜を犬と呼んだのは気に入らねぇな。

「訂正しろ。九頭竜は犬じゃない。ちゃんとした人間だ!」

「九頭竜とは生命の魔女と一緒にいた獣人のことですね? 私の情報網で、彼にあなた様が名付けをしたことは知っております。わかりました、訂正しましょう」

「やけに素直だな。んで、お前らは俺達と何を話し合いたいんだ?」

率直そっちょくに申し上げます。魔女教の目的は今後障害となり得るあなた様の抹殺です。しかし私と剣崎はそれを望んでいません。よって私達は魔女教を抜け、あなた様の手足となるべく馳せ参じました。まあ、ぶっちゃけるとそんな感じです」

 なるほど、二人はすでに魔女教を抜けていたのか。ならば敵対しなくて済むが......。

「エリアスと剣崎が仲間になるのは認める。だが魔女教を抜けたってことは、お前ら二人は現在進行形で魔女教に追われているってベタな展開はないよな?」

「それが......まさにあなた様の言うとおりなのです。直に彼女が私達の前に姿を現すでしょう」

「彼女? 彼女って誰だ?」

「魔女教司教であり七大罪の一つである暴食を犯した、暴食の罪人・カルミラです」

 エリアスが言い切るのとほぼ同時に悪寒を感じ、俺達の目の前に刃物を複数所持する女が現れた。彼女は気味悪い笑みを浮かべ、見つけた、とだけつぶやいた。

「ああ!」エリアスは硬直する。「彼女こそが暴食の罪人・カルミラですよ!」

 タイミングが悪すぎる。仁和とエリアスは戦闘向きではないから、実質は俺と剣崎だけでカルミラを倒さないといかん。厄介な奴を連れてきやがったな、エリアスめ!

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