伊達政宗、援軍要請は伊達じゃない その肆

 輝宗が疑問に思うのも無理はない。読者も気になっていることだろうし、早速答えを発表しようと思う。

「最初に蘆名に送った援軍要請の最後の一行には『そく火中かちゅう(すぐに火の中へ)』と書きました。しかし、蘆名は書状の内容が伊達家に不利だからと思って『即火中』を守らずに書状を残して援軍要請を断りました。これはまずいと思い、忍者に忍び込ませて書状に細工させました」

「細工というのは?」

「あぶり出しです。熱すると文字が出るのがあぶり出しですが、忍者にあぶり出しを用いて書状に、謝罪文と再度の援軍要請を書かせました。墨で書かれた文面は、誰かに盗み見られても良いようにという配慮と偽りました。そして忍者が書状に細工すれば次に、新たな書状を書いて蘆名に送りました。その書状の内容は『あぶり出しだから前に送った書状をあぶれ。即火中を守っていないのか?』というものです。これで蘆名は、あぶり出しは最初からあったと勘違いして、即火中にしなかったと謝りましたよ。

 まあ、すったもんだありましたが、即火中の三文字のお陰でこの作戦が成功出来ました」

「さすがは政宗だ。援軍要請を断られた際のことも考えて、『即火中』の文章を書き入れたのだな?」

「......はい」

 実は、伊達政宗は直筆の書状が多く、その書状の中で『即火中』と書かれたものもかなりある。しかし、受取人は即火中を守らずに書状を後世まで伝えたのだ。そのことから着想を得て、念のために『即火中』の一文を書いたのだ。

 たまたまのことが、思わぬ形で役に立った。歴史に精通した者ならば、戦国時代も楽々生き抜けるじゃないか!

 戦国時代を舐めすぎた発言だとは思うが、実に簡単な初陣であったことは確かなのだ。景頼が伊達家に寝返った(?)お陰で、相馬氏側の動きと江渡弥平側の動きの両方を知れた。そのため、勝利も出来たわけで、しかも尚良いこともあった。景頼は『信長公記』他、かなりの史料を持っていた。これも俺の思った通りなのだが、さすが日本政府が派遣した者だ。一級史料がそろっている。その一級史料を題材とし、俺の正体を知っている俺を含めた四人は会議を始めた。

 と、その前に江渡弥平の行く末について話しておこう。江渡弥平は景頼の裏切りを知り、相馬氏を捨ててタイムマシンに乗りこんで未来へと逃げ帰った。相馬氏は歯ぎしりをしながら、居城へ後退していった。ちなみに、江渡弥平も大いに役立った。江渡弥平は少数の未来人を捨てたわけだが、その未来人を景頼が説得し、伊達家に引き込むことが出来た。もちろん、俺と小十郎の正体を明かしたわけじゃないけど、少数の未来人が仲間に加わったことで江渡弥平率いる集団に対抗しうる部隊を作ることが可能だ。また、少数の未来人の中には副総司令官の牛丸も入っている。牛丸の本名は柳沢やなぎさわ氏丸うじまる。名前の氏丸から濁音を取って『牛丸』にしただろう。

「若様。私のこの史料は若様が所有していた方がよろしいでしょう」

「景頼。その史料はお前が持っていた方がいい。それよりもまず、その史料にのっとって行動するかどうかだ。俺が転生し、歴史もかなり変わってきた。歴史通りに行動した場合、今は本来の歴史ではなくなってきているから死ぬ可能性も出てくる。そこが重要な部分だな」

「名坂。その史料は信用してもいいと思うぞ」

「なぜ、神辺はそう思うのだ?」

「それは、史料は良質なものだからだ。歴史は変わっているかもしれないけど、大筋はまだ変わっていないはずだろうからな。この史料もまだ、僕たちに貢献してくれるはずだよ」

「なるほどな。神辺も一理ある」

「失礼ながら」愛姫は口を開いた。「小十郎殿も一理ありますが、私は違うと思うのです」

「ふむ。言ってみろ、愛姫」

「わかりました、政宗様。歴史は変わりつつある、と政宗様及び小十郎殿が言いました。もう歴史は変わってきています。つまり、景頼殿の史料はすでにお飾りに過ぎません。史料の内容を真に受ければ、やがて命を落とすと進言いたします」

「どちらとも、甲乙付けがたいな」

 会議は長時間続いた。結局、史料の使い方についての結論は出なかったが、史料は分散して全員が保管することとなった。俺は景頼が保管しても良いと思ったが、分散してそれぞれが保管した方が安全性が上がるから許可した。この意見は愛姫が述べたものだ。さすが、美人は頭もキレるんだな。


 これから俺がすることはたった一つ。家督相続! 家督! 家督だ! 輝宗から家督を継いで、あとは小田原征伐せいばつに参戦して全国に伊達政宗の名を知れ渡らせるのだ!

 それはともかく、ことはトントン拍子にうまく運んでいる。輝宗からの信頼度も着々と上がり、俺が家督を継ぐ確率は90%は超えていると確信している。思わず口元が緩んだ。いつか、天下を手の中に......。そうしたら、徳川家は取り壊す。あのジジイには切腹を言い渡すつもりだ。

「神辺」

「?」

「天下を自分のものにする。それが俺の望みだ。神辺の望みは何だ?」

「名坂の右目になることだ!」

 俺は再度、口元を緩めた。「一緒に天下を臨もう」

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