伊達政宗、送り主を探すのは伊達じゃない その壱
漢文の書き方や紙、他にもいろいろな条件がそろっている。この手紙の送り主は明らかに、この時代の人間だ。
手紙は直筆。送り主を探すには、この部屋に近づいた者をピックアップしてからの方がいい。そのためには、どうするか。ひたすら聞き込みをして、情報を得るしかないだろう。俺は朝っぱらから小十郎の寝床まで向かった。
「神辺。起きろ!」
「......」
「神辺!」
「......」
「神辺!」
かなり多く、小十郎に呼びかけたらやっと目が覚めた。だが、さすがに寝起きだから目が大きく開いていなかった。
「あ、名坂。どうした?」
「どうしたじゃないんだ。何者かによって、俺達が未来人だってバレた!」
「あれ? 今日は4月1日?」
「エイプリルフールじゃねぇよ!」
「は?」
小十郎に、曲者からの手紙の件について
「やばいじゃん!」
「マジでやばい」
「だから、この手紙の送り主を探し出す」
「どうやって?」
「夜の時間帯に部屋に近づいてきた輩を片っ端から取っ捕まえるんだ!」
「その曲者が忍者だったらどうする?」
「それはない。忍者がわざわざ手紙を残すわけがない」
「......言われてみればそうだな」
小十郎とは、手紙の送り主を探すためにちゃんとした計画を立てる会議をした。その結果はガバガバな計画しか完成しなかったが、計画がない方が何の
これからの方針は、目撃者を黙々と探して証言を聞くだけだ。で、まずは人員を集めた。人員、とはお馴染みの景頼、愛姫、成実、そして牛丸率いる未来人衆だ。景頼と愛姫には小十郎に話した通りに説明したが、成実や未来人衆には曖昧に言っておいた。ざっと、百人から二百人程度の人員だと思う。それから、一生懸命聞き回った。ただ、頑張っても報われないのが現実というものだ。一日やっても成果は得られない。
小十郎、景頼、愛姫を部屋に集めて、手紙の処分などを話し合った。
「この手紙が、朝起きたら床に落ちていた。神辺に宛てた手紙ってのは、歴史知識を書き込んだ紙のことだ」
「ん? そもそも何で、俺に手紙を書いたんだ?」
「アーティネスによって、神界に呼び出された。その時にアーティネスに言われたんだ。歴史を変えてはならない。伊達政宗が天下統一をしてはいけないってね。俺は歴史を変えようとしているから、神界の裁判に出ることになった。殺される可能性も考慮して、俺は神辺のために歴史知識を詰め込んだ書物を残そうとした。もちろん、未来についても書いた」
「その書物を、曲者が盗ったのか......」
「裁判は歴史知識剥奪で済んだんだが、戻ってきたら曲者からの手紙があった。最悪だよ」
「指紋を採取出来ないもんかな?」
「指紋か。そいつはちょっと怪しいな」
「何で?」
「誰が何回触ったかなんてわからんから」
「確かにそうだな」
愛姫は床に置かれた手紙を手に持った。「......鉄、鉄の匂いがする」
「鉄? 本当か、愛姫?」
「私が嘘を言うとお考えて?」
「いや、そんなつもりはないが......」
鉄の匂いが手紙からするならば、鍛治屋が犯人だということもありえなくはない。話し合いもそういう方向へと進んでいき、明日は鍛治屋の周辺を調べてみることになった。
翌日早朝。四人で集まり、鍛治屋の元に向かった。最初に訪ねた鍛治屋は、俺が火縄銃を作るときにかなりアドバイスをくれた者だ。
「おう、鍛治屋!」
「若様。これはこれは、お久しぶりです」
「火縄銃を作った時以来だから、もうかなり久しいな」
「はい。さようです」
「あの時は助かった」
「光栄でございます。それで、若様直々に訪ねられた用件とは何ですか?」
どうやって鍛治屋に手紙のことを伝えていいかわからない。手紙を書いたか聞いても無駄だ。ひとまず鍛治屋の仕事について尋ねながら、鉄の匂いがするか確認してみよう。
「鍛治屋ってどんな仕事すんの?」
「それはもう、鉄を扱う仕事です。溶接とか、
「鍛造? 俺も鍛造やりたい」
「若様がですか? では、ご教授いたしましょう」
鍛造とは、THE鍛治屋だ。鉄は熱いうちに打て、とかだ。鉄を熱してハンマーでバンバン叩く! 楽しそうだろ? 鍛治屋って感じだろ?
鍛造はついでに、小十郎と景頼と愛姫もやった。結局、俺を含めて全員がなかなか成功しないで終わった。情けないものだ。せめて、愛姫の前では格好良くしたかった。今はそれも叶わない。
次から次へと鍛治屋の元を回っていき、犯人らしき野郎は見つからなかった。
四人で再度話し合いを始めた。
「えっと」俺はふところから手紙を取り出して、床に放り投げた。「鉄の匂いがしたが、今日訪ねた鍛治屋の内に犯人はいなかった」
「名坂。それってつまり、真犯人が俺達に、鍛治屋を犯人だと誤って推理させるために仕掛けた細工ってことか?」
「おそらく、そうだろう。真犯人は、相当頭の回転が早いんだ」
「細工か。それならどうしても真犯人は捕まえらんないじゃん!」
「いや、そうでもないんだな......」
俺には、確かな勝算があるのだ。真犯人ですら見落としていた勝算が。
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