伊達政宗、隻眼の覇者は伊達じゃない その陸伍

 政宗の捜索は難航していた。政宗が今いる洞窟は寺から距離があったのも理由の一つだが、寺側と仁和側でうまく連携が図れていないのがそもそもの原因であった。故に政宗は見つからない。

 その間に藤堂と柏木は金を集め、地道にその純度を高めていった。金以外にも高値で売れそうな鉱物は片っ端から採り、その鉱物の精錬を行って価値を上げることを繰り返している。

 藤堂いわく、慣れてきたらただの作業であり、猛烈な睡魔が襲ってくるらしい。精錬中に寝たらものすごく危険ではあるのだが、そこのところは二人は優秀だった。会話で眠気を紛らわせつつ、精錬を行っているのである。

 現在は藤堂と柏木は寺の外でスペースを確保し、灰吹法によって金を精錬している。

「そういえば柏木様、この灰吹法の原理は知っていますか? 何分僕は地球や宇宙などを中心に研究していたもので、こういう錬金術には疎いのです」

 柏木は藤堂の疑問に答えるべく灰吹法の原理を思い出しつつ、加熱を終わらせるタイミングを見計らっていた。

「ええと、灰吹法を始める前に金と鉛を溶かして混ぜたのは覚えていますか?」

「はい、覚えていますよ」

「金と鉛だと融点は鉛の方が低いので、金と鉛の合金を加熱すると鉛が先に溶けます。銅や鉄や石英などの金に含まれていた不純物は合金にする際に鉛と混合するので、不純物が混合した鉛が溶けると金の不純物は少なくなるわけです。つまり金の不純物を鉛とともに染み出させる、というのが灰吹法の原理になります」

「しかし不純物と鉛だけを溶かせたとして、融解していない金と融解している不純物と鉛を分離させるのは難しいのではないでしょうか?」

「だからるつぼに灰を入れて、その上で合金を溶かしているんです。溶けた不純物と鉛は灰に染み込み、純度の高い金だけが灰の上に残ります。普通の灰だと失敗しますが、骨灰を使うとうまくいきますね」

「なるほど。けれどそれでもかなり難しいのでは?」

「私は錬金術師ですよ? 何度も失敗し、今ではそれなりの腕になっています」

 と会話のキャッチボールを成立させながら、柏木はふいごを置いて火を消した。柏木が伸びをしているのに気付いた藤堂は、お疲れ様です、とつぶやいた。

「このふいごが大きすぎて、余計に体力を使う羽目になりましたよ」

「言われてみると柏木様が使っていたふいごは精錬や製鉄に使うようなものではありませんね。普通は小さなふいごを使い、最小限の体力で精錬するものですが......」

「寺がこのふいごを使えと言って渡してきましたが、完全に嫌がらせでしょう」

 そう言って柏木は苦笑した。藤堂もそれに応じて苦笑し、ある程度冷えて固まったであろう金をるつぼばさみで取り、冷水に入れる。

 そしてるつぼには骨灰と鉱滓スラグが残り、柏木は鉱滓だけをるつぼから取り出した。

「ん? 柏木様、それを取ってどうするんですか?」

「鉱滓のことですか? これは廃棄物なので捨てますよ」

「廃棄物なんですね」

「はい。精錬すると生まれる廃棄物です」

 鉱滓を捨てた柏木は水に手を入れて、精錬した灰吹金を手に取る。どうやら純度を確かめているようだ。

「どうですか、純度は?」

「水に沈めて比重を調べないと確かなことは言えませんが、18金(純度約75%)ってところだと思います」

「まあまあですね」

 準備をしてから今回精錬した金の比重を確認したところ、柏木の鑑定通り18金で間違いはないようだ。これ以上の精錬はこの時代では難しいので、二人は断念した。

 政宗捜索から帰還した仁和の指示で、ガラスを磨いて金剛石ダイヤモンドと偽る作業も開始された。

 こうして三日ほどでかなりの量の18金と黄鉄鉱、光り輝くガラスなどのものが用意され、あとは売って資金を得るだけになる。が、人生はそううまくいかないように出来ている。あるいは、どこぞの神が面白そうだからという理由で政宗達に不運を連発させているだけかもしれないが。ともかく、最悪な出来事が政宗失踪三日目の夜に起こった。

 藤堂と柏木は金の精錬するためなどに使用するため、色々な薬品を作っていた。その薬品は硫酸や塩酸などで、言わずもがな劇物に数えられているものである。

 藤堂はその日、捨てられた大量の鉱滓から微量の金を抽出出来ないか試行錯誤していた。その時、不意に柏木は藤堂へ硫酸をぶっ掛けたのだ。当然硫酸は藤堂に掛かると化学反応を起こし、皮膚が焼けるように熱くなる。

「ああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 藻掻く藤堂を尻目に柏木は澄ました顔で寺を飛び出すと、森の中へ姿をくらました。

 間髪入れずに藤堂の叫び声に気付いた仁和が駆けつけ、藤堂の状態を診る。藤堂は痛みにもだえていて、とても会話が出来る様子ではない。まずは水で硫酸を洗い流さなくては、と犯人探しから思考を切り替えた仁和は、叫びながら人を呼んで水を持ってこさせた。

 犯人探しを頭の片隅に追いやった仁和ではあったが、彼女は犯人に心当たりしかなかった。

「柏木慧......

 そのつぶやきは小さすぎて聞こえた者はいなかったが、ほとんどの者が柏木が裏切ったと確信していた。

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