第235話 山梨県甲州市 MGVsワイナリー

 20号を左に曲がってしばらくバイクを走らせている。

 田舎道である。


”あれ?道を間違えたかな?”


 たしか、小学校がある交差点を曲がるはずなのだが学校らしきものが見えてこない。


 実は、20号の勝沼町下岩崎の交差点を曲がる予定だったのだが、手前で曲がってしまっていたのだ。



”どこかで、止まって地図を確認しようかな・・・”


 左カーブを曲がっていると工場みたいな建物が見える。

 茶色の屋根に白い壁で、工場にしてはおしゃれである。


 今日は土曜日だから、工場はやっていないだろう。

 入口の所で、止めさせてもらって地図を確認しよう・・・

 そう思って建物を見る。


 『MGVs』


 と大きく描かれている。

 何の工場だろう?



 駐車場の入り口で、バイクを止めて建物を見て見ると・・・


 白いタンクのようなものがあり、MGVs Wineryと書かれている。


「ここ・・・ワイナリーなの?」


 入口をよく見ると、高級レストランのようになっている。

 どうやら、ただの工場ではなくワイナリーだったようである。

 どうりで、工場にしてはおしゃれであった。


 さすが、噂に聞いていた勝沼。

 適当に走ってもワイナリーに着いてしまった。


 目的としていたワイナリーではないが・・・これも何かの縁。




 芝が張られた駐車場にバイクを停車する。

 ヘルメットを脱いでミラーにかけて、入口に向かった。



 入口で、消毒液で手を消毒する。

 検温して・・・・


「へぇ・・・入店記録票?」


 小さな紙に名前と住所と人数を記入するようになっている。

 おそらくは、感染者が出たら呼び出されるのだろうか?

 洋子は記録票を書き終え、小さな箱に投入する。


 そして、扉が開け放たれている店内に入っていった。




「いらっしゃいませ!」 

 MGVsワイナリーの女性店員は挨拶した。


 入って来たのは20代のと思われる若い女性。

 白いライダージャケットを着ているので、バイクで来たと思われる。

 ショートボブの小柄な女性。ぱっと見はかわいらしい感じにも見える。

 だが・・・


”うわぁ・・眼力・・強い!!”

 

 キリっとした、強いまなざし。

 それこそ・・・かっこいい!・・・という印象。


”すごい美人・・うらやましいな”

 女性ですら、あこがれる美人であった。




 店内はとても広かった。


 キャビネットの上に、何種類かのワインボトルが並べられている。


 それぞれのボトルのラベルに書かれているのは・・・アルファベットと数字。

 シンプルなラベル。

 そのシンプルなラベルを、洋子は”かっこいい”と思った。

 特に、あるワインのラベル・・・それが気になった。


 ボトルを眺めていると、店員がやってきて説明してくれた。


「うちのワインは、ブドウの種類をアルファベットで、産地と製造方法を数字で表していて組み合わせで名前が決まっているんですよ」


 そう言って、パンフレットを開いて見せる。


「Kは甲州種の白ワイン、BはマスカットベリーAの赤ワインです。次の数字がどこの畑で取れたものかを示します。その次の2桁の数字が製造方法を示してるんですよ」

「なるほど・・・」


 洋子はもともと理系出身なので、そのような合理的な考え方は嫌いではなかった。


 といっても、洋子にはピンときていない。

 ワインに詳しいわけではないので、製造方法を聞いてもわからないし、味の想像もつかないのである。



 ふと、”いい天気”で聞いた話を思い出した。

 ワインをどう選べばいいかを聞いたら、店員のミキさんが言った。


”ワインは飲んでみないとわからないから、気に入ったラベルのデザインで選んでも全然ありと思うわよ~”


 その観点からすると、洋子はパッと目に入って気になっているワイン。

 シンプルでかっこいいラベル。

 白地に大きく”K2”とデザインされている。


”まぁ。これも何かの縁だね・・・”


 たまたま入ったワイナリーではあるが、衝動買いしてもいいと思った。


「あの、これください」

「はい、かしこまりました」



 店員が、ワインのボトルを紙で包んでくれている。

 そして、そこに”MGVs Winery”と書かれたスタンプを押した。

 なかなか、おしゃれである。


「このワイナリーって、外見は工場かと思ったんですが、おしゃれな建物ですね」

「あぁ・・・実は、この建物はもともとは精密機械の工場だったそうなんですよ。それをワイナリーに改装したんだそうです」


 なるほど、そういう事だったのか・・・



「ありがとうございました」



 店を出てバイクに戻る。

 雨具を入れているタンクバッグにワインだったら2本くらいは入るだろう・・・と思っていたのだったが。


「これ・・・どう見ても、一本しか入らないわね・・・」


 購入したワインを入れていたら、ギリギリ何とか入るくらいだったのだ。

 見積もりが甘かった。


 もっといろいろ見て回ってから決めればよかっただろうか?

 だが、気になったのものは仕方がない。



 一応、他のワイナリーも見て回ろう。

 買うことはできないかもしれないけれど。

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