第229話 Cfaバックヤードワイナリー Opening Act Muscat Bailey A-DT 2019

「はい・・・はい・・・来週火曜ですね。大丈夫ですよ・・・・わかりました・・・」


 美樹は電話で話している。

 夕食の途中であった。

 邪魔にならないように、部屋の外で話してはいるが声は聞こえてくる。


「それでは、火曜日に・・・よろしくお願いします」


 通話を終了し食卓に戻った美樹に、父親が聞いてきた。


「今の電話、勤め先からか?」

「うん、そう。お店が再開するから準備を手伝って欲しいって」


 そう言って、美樹は食事を再開する。

 そんな美樹を見て、母親は残念そうな顔をした。

 

 母親は・・・そして、父親も娘が飲食店の店員として働いているのが少し心配なのである。

 このまま、実家に残ってくれることを少し期待していた。


 ふと、目が合った美樹は笑いながら言った。


「ほら、おか~さん。そんな寂しそうな顔しないでよ~。遠くに行っちゃうわけじゃないんだから~」

「まあ、そうなんだけどね」

「だいじょ~ぶ!心配しないでよ」


 そう言って、グラスのワインを口にする。

 飲んでいるワインは・・・


 栃木県足利市 Cfaバックヤードワイナリー

 Opening Act Muscat Bailey A-DT 2019


 マスカットベリーAの赤ワインだ。

 マスカットベリーAなのだが、このワインは独特の香りがする。

 果実味が芳醇なのだが、スパイシー。


 今日の夕食の、生姜焼きもよく合う。


 美樹もわかっているのだ。

 両親が、自分に実家に戻ってもらいたがっていることくらい、お見通しである。


”でも・・・もうちょっと”


 いつかは、ここに戻ってくることになると思っている。

 でも、少し先延ばしにしようと思っているのだ。


 地元の商店街も好きだけど、都会の生活に少し未練があるのだった。

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