第260話 プロジェクト

「DXですか?」


 山口貴司は会社にて、部長に呼び出された。

 部長室に入ると課長がすでにソファに座っていた。


 貴司は部長に促され、ソファに座る。


 そして、部長から告げられたのは・・・特別プロジェクトの担当に任命するとの話だった。


「そうだ。わが社も業界他社に後れを取るわけにはいかない。そこで営業支援システムを全車に導入し、DXによって革新することとなったのだ。

 山口君には、そのプロジェクトを担当してもらいたい」


「はぁ・・・。でも、システム導入であれば情報システム部の業務なのではないでしょうか?」

「もちろん、情報システム部にもプロジェクトに参画してもらう。それだけでなく、調達部門や経理など、全社の部署をシステムで連携させることで効率的な営業活動を実現したい。そのためにも、営業部門が主導的な立場になる必要があるのだ」


 全社を巻き込んだ、重大なプロジェクト。

 その推進役に山口貴司が選ばれたのだ。


 貴司に断るという選択肢は無かった。


「わかりました。お役に立てるよう、全力で取り組ませていただきます」

「そうか。そう言ってもらえると思っていたよ。期待しているよ」

「ありがとうございます」


 重要な仕事に対して指名してもらえたことに、高揚感を感じながら貴司は部長室を後にした。


 貴司が部屋を出た後、部長は課長と話していた。


「ところで、S社の例のプロマネは確保できたそうだ。社長自ら掛け合ったそうだ」

「かなり高額な費用になりました。その価値があるのでしょうか?」

「いや、噂どおりならプロジェクトは成功間違いない。それならば安いもんだ」

「はぁ、私もその話は聞いて居ります。でも噂通りなら・・・」

「どうした?何か問題あるのか?」

「いや、山口君はかなり苦労することになると思うと・・・」

「いや、むしろ彼の成長のまたとない機会だ」

「はぁ・・・」




 


 その日から、貴司は情報システム部と何度も打ち合わせを重ねた。

 システムの概要の説明を受け、計画のたたき台について議論を重ねる。


 もちろん、貴司はシステムの開発に関しては素人である。

 だが、営業の業務については一通り理解しているつもりである。

 また、他部署との業務フローも社内規定で決まっている。

 それをシステムにすればいいと考えていた。


 すでにシステムを開発する会社は決定済みとのことであった。

 そして、その会社との打ち合わせは情報システム部でセッティングされていた。


 貴司は打ち合わせに向かうエレベーターの中で、情報システム部の担当に聞いた。

「こういうのって、普通は相見積もりを取って決定するものじゃないんですか?」

「いえ、TOPダウンで決まっていました。でも、業界で有名なPMに担当していただけるので仕方ないんじゃないでしょうか」

「有名?」

「なんでも、そのPMが担当するプロジェクトは絶対に失敗しないらしいんです」

「なんだそりゃ?ドラマじゃあるまいし」

「ただ・・・ちょっと心配なことが・・・」

「え?」

「そのPM・・・鬼のPMと呼ばれていて、情け容赦ないそうなんです」

「うわ・・・」


 貴司は、強面の大男を想像した。


「それは、嫌だなぁ…」

「そうですね」




 コンコン


 ノックをして応接室に入る。

 すると、スーツ姿の数人が立ち上がって会釈した。



 貴司の目はそのうちの一人にくぎ付けとなった。


 早速始まる名刺交換の儀式。

 順番に自己紹介して名刺を交換していく。


 そして・・その人物が貴司の前に立った。


「この度、弊社内のプロジェクトのとりまとめをさせていただくことになりました」


 軽く会釈をして、貴司に名刺を差し出してきた。

 それは、パンツスーツに身を固めた、ショートボブの小柄な女性。


「柏木洋子と申します。よろしくお願いします」


 その表情は明らかに不機嫌であった。

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