第246話 電熱ウェア

「電熱ウェアねぇ・・・」

「お勧めとかありませんか?」


 洋子は山口モータースに来ていた。

 ネットで調べたが、どれが良いかわからなかったのだ。

 それならば、餅は餅屋。詳しい人に聞くのが早い。


「常連さんがよく使っているのは、このメーカーだね。電源が車載バッテリーから取れるのがいいらしい」

 店主の勇二がカタログを開いて見せてくれる。

「へえ・・・でも、サイズはあるかしら?」

「女性用もあるよ。このインナータイツなんかどうだい?」

「伸縮性があるのかぁ・・よさそうね。取り寄せできる?」

「おぉ・・大丈夫だ」

「じゃあ、お願いします」


 勇二は、少し驚いていた。

 今どきの若者は何でもネットで済ましてしまう。

 こんな街のバイク屋で注文すると思っていなかったのだ。

 律儀な娘である。

 これはお得意様になりそうだ・・・


 伝票に連絡先を記入する洋子。

 電話でメーカー在庫を確認する勇二。


「在庫あるから明後日には入荷するよ」

「それは助かります!それなら祝日に間に合う!」

「ほお、どっか行くのかい?」

「いやあ、そろそろ新蕎麦の季節だから食べに行こうと思って。どっか、お勧めとかありますか?」

「ほお、新蕎麦かぁ。いいね。こっちで蕎麦で有名なところと言うと・・・」


 蕎麦で有名な名所を教える勇二。

 ニコニコと、洋子は嬉しそうに感謝する。

 




 貴司は店の方から、若い女性の声が聞こえて気になって覗いてみた。

 そこには、ころころと笑うショートボブのかわいらしい女性。

 先日店に来ていた女性だ。


 貴司より年齢は少し若いだろう。

 嬉しそうに笑いながら親父と談笑している。


 ここからは見えないが、親父は鼻の下を伸ばしているにちがいない。

 なんとなく疎外感を覚え、悔しいような何とも言えない気持ちになる。


 もやもやとした気持ちのまま自室に戻り、ベッドに横になる。

 何なんだ、いったい・・・

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