第217話 武蔵ワイナリー 饅頭怖い 2018
「むう~~~」
最近、早乙女美月は不機嫌である。
なぜなら、夏休みに旅行に行く予定がキャンセルせざるを得なかったからである。
本当なら、来週には那須のホテルに行く予定だったのだ。
だが、緊急事態宣言が発令されているため、キャンセルしてしまったのだ。
「ほら、緊急事態宣言がおわったらまた予約するから。機嫌を直して」
早乙女健司は妻の機嫌をなんとかなだめようとしている。
もともと、美月はインドア派である。だが、あのホテルには・・・正確には、あのホテルの食事にはとても期待していたのだ。
その時、インターフォンが鳴る。
健司がボタンを通話ボタンを押す。
『宅急便で~す。クール便です』
「はい、わかりました」
宅急便は健司あてだった。
だが、その中身は・・・
「ほら、美月が好きな武蔵ワイナリーの新作が届いたよ」
「え?ほんと!?」
よく行く”いい天気”が休業中のため、家飲みするしかない。
この時期はワイナリーから新作のリリースが多い。通販で、注文していたのだ。
届いたワインは・・・
埼玉県小川町 武蔵ワイナリー
饅頭怖い 2018
「え・・・?」
奇抜なネーミング。ラベルには饅頭が描かれている。
「早速、味見してみようか」
健司は、皿に冷蔵庫にあったチーズとローストビーフを用意する。
「小公子90%にメルロー10%ですか。ちょっと変わっていますね」
ワインの栓を開けてグラスに注ぐと、このワイナリーらしい濃い紫色。
口に含むと、小公子らしい濃い果実味・・・だが・・
後味がさわやかな酸と軽い果実味に変わる。
たった10%のメルローが、後味をがらっと変えてくれているようだ。
「このワイン、温度を変えたら味が変わりそうな気がする・・・」
そう言って、健司は冷蔵庫に行き氷を持ってきた。
それをグラスに入れる。
「やっぱり、かなり変わるなぁ」
より爽やかで軽い感じになる。
おそらく、温度が高めにしたらまた味が変わるのであろう。
いろいろ味の変化が楽しめそうだ。
どうやら、美月もこのワインが気に入ったようである。
ローストビーフをつまみながら、美味しそうに飲んでいる。
「でも、健司さん・・・私、このワイン何が怖いかわからないんですけど・・・」
美月は、ラベルを見て微笑みながら言った。
よかった。少しは機嫌が直ったようだ。
「・・・うん、確かに。でも、もしかすると」
健司は同時に届いた、別のワインを手に取って言った。
「こっちも飲めば変わるかもよ?」
埼玉県小川町 武蔵ワイナリー
饅頭なんまら怖い 2018
こちらのラベルは、二つに割った饅頭が描かれている。
「ダメですよ、健司さんは一日に2杯までですからね」
笑いながらも、美月は健司の健康のため釘を刺したのであった。
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