第98話 助けて

金曜の19時。

瀬戸美月は親友のみきちゃんと一緒に”いい天気”にやってきている。

「美月、最近付き合い悪いじゃん。どうしたんだよ。」

「いや、そんなこと無いよ。」

「さては・・・早乙女さん?」

「いやぁ・・・あはは。」

”さては図星か!”

ミキも早乙女のことは気になっているため、状況が気になる。

「あぁー?どこまで進展したんだよ。」

笑ってごまかす。


カランカラン

入口が開き、新たな客が入ってきた。

入ってきたのは2人組の若い男性達。

ちらっ、とそちらを見るが早乙女ではないので2人共興味をなくす。

「いらっしゃいー、カウンターでもいいですか?」

流石に金曜日。満席になったようである。



ーーーー

金曜の夜20時。

早乙女は、そろそろ仕事を切り上げようとしていた。

瀬戸さんと週末にまた会うことにしたんだよな。

どうしよう。

いきなり酒を飲むのも何なので、ドライブかショッピングか・・・

などと予定を考える。

まずは、待ち合わせを何時にするかだが。

早めにしてランチでも食べようか。

などと考えていたら、携帯にメールが届く。

折りたたみの携帯を開いてメールを確認する。

瀬戸さんからだ。


ーーーー


(少しだけ時間を遡る)

入ってきた2人組は、ミキの隣のカウンターに座った。世間的にはイケメンと言っていい部類。

しかし、すでにかなり酔っているようだ。

「あ、おねーさん達かわいいね。」

「一緒に飲もうよ〜。」

すぐに絡んでくる。

正直うっとおしい。

「私達、2人で大事な話をしているので邪魔しないでもらえない?」

「え〜、いいじゃん。」

席を立って横にくる。

もうひとりも席を立つ。

「こっちの彼女もかわいいね。清楚系?」

瀬戸美月の横に割り込もうとする。

瀬戸美月は、嫌悪感丸出しの表情をする。

「やめてください。」

それでも、ぜんせんやめようとしない。

ミキは、”ヤバい”と思った。

瀬戸美月は、もともとこの手のイケメンを嫌っている。

大学の2年目くらいまでは男性恐怖症と言っていいほど嫌悪していた。その頃の弾性に対する表情になっている。

「おい、いいかげんにしろよ。」

「え〜いいじゃん。楽しく飲もうよ〜。」

この店では完全に浮いている。

「お客様、他のお客様の迷惑になる行為はやめてください。」

「うるさいな、楽しく飲んでるだけじゃんか。」

店員も止めに入るが、相手にしない。


ーーーー


その後も2人組はしつこく絡みつづけた。

「ねーねー、こんな店じゃなくて他のところに行こうよ。いいお酒があるところ。」

「うるっさいなー、もういいかげんにしろよ。」

「こっちのお姉さんもどう?清楚系だけどお酒は飲める方なの?」

「やめてください!!」

「美月、もう出ようぜ。」

「え〜もっと一緒の飲もうよ。」

無理やりミキの肩を組んでくる。

「離せよ!!」

「お客さん、いい加減にしないと警察呼びますよ!!」

「うるせえな!」

もう大騒ぎである。

そんな時、どさくさに紛れてもうひとりが瀬戸美月に手を出そうとした。

「お姉さんも、こんなところじゃなくうちに来ようよ〜」

「やめてください!」

嫌悪感丸出しで拒否する。

「えーいいじゃん。」

ニヤニヤと笑いながら肩を組もうとする。

その時、怒気を含んだ大きな声が背後からかかった。

「オレの彼女にちょっかい出すのはやめてもらえないか。」

イケメンが振り返る。

「ああん?あんたみたいなおっさんが彼氏のわけねえじゃん。何いってんの?」


しかし、次の瞬間・・

瀬戸美月がその男性・・早乙女に抱きついた。

背中に手を回して・・・そりゃあもう、ガッシリと抱きついた。


全員がポカンとする中、抱きつきながら

「早乙女さん、おそーい!」

ニコニコと言う

「いままで仕事だったんだよ。」

「えー、メールしたのに返事無いんだもん。」

「いや、急いできたから。」

さっきまでの表情とはまるで別人だ。


さすがに、この状況で彼氏じゃないとは言えなくなったイケメンは呆然としていた。

店内の他の客も、”俺たちは何を見せられてるんだ?”という顔をしている。


店の中を見て、早乙女は今日は退散したほうがいいな・・と思った。

「ミキちゃん、席無いみたいだから帰るけど2人のお会計これで足りる?」

と一万円札を渡す。

「あ・・・大丈夫です。」

「じゃあ、お釣りはつけといてね。」

「はーい」

「じゃあ、いこうか。高橋さんも行こう。」

「だからそう呼ぶなって言ってるし!」


3人が出ていった店内は白けた雰囲気が漂っていた。

酔っ払いのイケメン2人は居心地が悪いのか、お会計をして早々に出ていった。

もう2度と来ることはないだろう。


ーーーー


「災難だったね、このあとどうする?」

店を出て、早乙女が聞く。

「あー、白けちゃったしもう帰るわ。」

「あ、私は早乙女さんと・・・ちょっと・・・」

「へ〜ぇ?」

訝しげに2人を見るミキ。

駅の改札付近で別れた。


改札の中から2人が歩いていく姿を見る。距離が近い・・・

”アイツらいつの間にそんなに関係が進んだんだよ・・・”

悔しい思いをするミキ。

だが、その悔しさの原因。

ミキは複雑な思いで噛み締めているのだ。

学生時代からの親友が、ようやく初めての彼氏ができた。

それは喜ばしいのだろうけど・・

早乙女を美月に取られたというより、美月を早乙女に取られた・・そちらの感情が強い・・


”別に百合じゃないんだけどなあ・・”

それでも、親友が奪われたような気がして悔しいのだ。

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