第256話 新年

「あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「いらっしゃい、待ってたわよ」


 元旦。


 早乙女健司と美月は、瀬戸家を訪れた。


 年末は健司の実家や親戚にあいさつ回りをしてきた。

 そして新年のあいさつに瀬戸家にやって来たのだ。


 今年は、旅行には行かずに親戚へのあいさつ回りで忙しい。

 新婚だから仕方がない。


「お母さん、これお土産ね」

「あら、悪いわね」


 持ってきたのは、地元で有名な洋菓子とワイン。


 シャトーメルシャン 椀子 オムニス 2015


「あら~、このワイン美味しかったのよね。ありがとう」

「いえ、気に入っていただいていたならよかった」


 ちなみに、結構高価なワインである。


「おお!健司君。よく来た。さあ、こっち来て」


 にぎやかな瀬戸家。

 健司は暖かく迎え入れられた。


◇◇◇◇


「おおい、美樹。もう酒が無くなっちゃったぞ」

「もう・・お父さん飲みすぎよ~」


 ”いい天気”の店員の篠原美樹は実家に帰省していた。

 とはいえ、埼玉だからそれほど遠くも無いのだけれど。


「しかたないなぁ」


 出してきたのは・・・


 長野県塩尻市 井筒ワイン 生ワイン2021 ナイアガラ白


 新酒である。


「お、これはなかなかうまいなぁ」

「でしょ~、新年だから新酒がちょうどいいわよ」


 美樹は、今年は実家でゆっくりと過ごすことにしている。


 そろそろ親孝行しても良い年齢だし・・・


 そう思うようになってきたのだ。


◇◇◇◇


 山口貴司は、家の居間で炬燵に入ってTVを見ている。


「おう、貴司は正月にどこにもいかねえのか?」

「うるさいなぁ、親父もおなじじゃないか」


 実家にいるので帰省することもない。

 近所の神社に初詣に行ったあとは、ぼーっとして過ごすだけだった。


「まぁ、正月はのんびり過ごすのもいいかもなぁ」

「まぁねえ」


 ふと、貴司はあの女性のことを思い出した。

 あの人は、今頃は何しているだろうか。

 帰省しているんだろうな。



 貴司は初詣の神社にて、つい今年また彼女に会えますように・・・

 そして、仲良くなれますようにと願ってしまった。


 おみくじは、凶だったけれど。


 また、会えるかな。


 正月が終わったら、またあの店に行って見ようと思っていた。



◇◇◇◇


 それぞれ、平和な正月を過ごしていたのであった。




◇◇◇◇




「これ!。またテストデータが間違ってんじゃないの!!」


 そのころ、柏木洋子はテストの結果による不具合インシデントの切り分けに追われていた。

 正月に若手や派遣社員を働かせるわけにいかないので、プロジェクトマネージャーの洋子自らが原因調査・解析をしているのであった。

 明日の再テストまでに、少なくともバグなのか他の原因なのかくらいは切り分けておかないといけない。

 幸い、今のところ洋子の会社の担当部分にはバグが見つかっていないのが救いである。

 他社のバグや、顧客の操作ミス。あとはテストデータの誤りによる不具合ばかりである。

 その分・・・自分の所のバグではないとわかると、安堵と共に無性にやるせない気持ちになる。


「うう・・・おいしい食事が食べたいよお・・」


 コンビニで買ってきたオニギリで空腹を満たして、仕事に没頭するのであった。

 (弁当は売り切れていた)


「もぉ~~~!!。正月が開けたら、絶対遊びに行くんだから!!」


 このテストが無事に終われば、プロジェクトは山場を越える。

 そう思って、がむしゃらに働く洋子であった。



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