第241話 山口モータース

 日曜日の午前中。

 山口モータースに、一台のバイクがやって来た。


 緑色のセロー


 店主の山口勇二は、バイクを見て思った。


”うちで買ったバイクじゃないな”


 冷やかしか、簡単な整備だったら追い返すつもりだった。

 しかし、バイクから降りてヘルメットを取ったのは・・・小柄でかわいらしい女性だった。


「いらっしゃい、どうしました?」

「すみません、オイル交換をお願いできるでしょうか?」

「いいけど。このバイク、うちで売ったバイクじゃないですよね」


 すると、予想外の回答が帰って来た


「すみません。私、最近宮城から引越してきたんで・・・

 どこに整備を頼んだらよいかわからなくて・・」


 そういう理由ならば仕方ない。





「貴司!そろそろお昼ごはんができるからお父さんを呼んできて!」

「はいはい」


 キッチンで料理をしている母親から言われた山口貴司は、めんどくさそうに起き上がった

 畳の部屋でゴロゴロしていたのだ。


 山口貴司は、父親の店を継ぐつもりは無い。そのため、就職先は商社でサラリーマン。

 結構、会社では出世頭と言われている。


 そのため、店頭に行くのは父親に用事があるときだけだった。

 貴司は、居間を横切り、廊下の先の店頭にやって来た。


 すると、店頭にはかわいらしい女性が笑顔でころころと笑っていた。

 父親と談笑している。



「親父、そろそろお昼だって!」

「おう、わかった。もうすぐオイル交換終わるから」


 貴司は、お客さんが気になっている。

 笑顔がかわいい女性。

 こんな女性が店に来たことなんてなかった。


 いつまでも店頭にいるわけにいかないので、貴司はゆっくりと居間に戻った。


 店からは、笑い声が聞こえる。

 何を話しているんだろう・・

 そもそも、何処に勤めているかもわからない。


 ただ、小さなバイク店には不似合いな女性であることは間違いない。

 今後、会えないかもしれない・・

 そう思ったら、脳裏に浮かぶ彼女の姿が気になって仕方が無かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る