第104話 サドヤワイナリー HORLOGE(オルロージェ)2017 赤 ③

「4年と3年・・・7年ですか・・」

「そうですね、もうそんなになります。」

ワインをもう一口飲む。

「ずっと・・・彼女を忘れられなかったのでしょうか?」

「いえ・・そういうわけではないんです。」

不安そうな瀬戸さんの頭を撫でる。

「人と関わることが怖くなってしまったんです。だから・・あまり人と関わらないようになっていった。それだけです。」


そう、ずっと怖かったんだ。


誰かを傷つけたり。

大切な人ができて・・・失ってしまったり。


なのに・・瀬戸さんは・・・

こんな私のもとに入り込んできた。

距離を取ろうとしても、許してはくれなかった。



そして、いつの間にか・・・

瀬戸さんを失うのが怖くなってしまった。



「瀬戸さん。あなたは、そんな私のところに来てくれました。

 とても嬉しかった・・・」

「いえ・・・そんな・・」


「でも、私は臆病で・・・情けない男なんです。」

瀬戸さんは私を見つめ、首を横にふる。


「だから、お酒の力を借りないと言えない私を許してほしい。」

じっと見つめてくる瞳。



「私はあなたが好きです。正式に交際していただけないでしょうか?」


驚き、大きくなる瞳。

やがて、笑顔になり、頷いてくれた。


「はい。喜んで。」


抱き合う二人。

やがて、見つめ合い・・・顔が近づいていき・・・


キスをした。


早乙女にとって、7年ぶりの・・・そして瀬戸さんにとって初めてのキス。

だから、とてもぎこちないキスだったのではあるのだが。




サドヤワイナリー HORLOGE。

裏のラベルに書かれている言葉。

『二つの時計が重なり、新たな時を刻んでゆく。』

この日この時、ようやく2つの時計・・・2人の時が共に刻み始めたのだった。

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